非・溺愛宣言~なのに今夜も腕の中~
 今朝、一毬が目を覚ました時、湊斗はやはり隣にいなかった。

 急いでリビングの扉を開くと、そこには何事もなかったかのように、スーツ姿で新聞を広げる湊斗がいた。


「今日も、早いんですね……」

 一毬はコーヒーメーカーのスイッチを入れると、カップをセットしながら湊斗をそっと振り返る。

「あぁ、寄るところがあるからな」

 湊斗はそう言うと、少し疲れた顔を隠すように優しくほほ笑んだ。


『そう見えてるだけじゃない?』

 湊斗がぐっすり寝ていると伝えた一毬に、倉田が言った言葉が頭をよぎる。

 一毬はいつも爆睡してしまうから気がつかないだけで、湊斗はぐっすり寝ているように見えても本当は違うのかもしれない。


「……あの」

 静かにコーヒーに口をつける湊斗に、一毬が声をかけようとした時、湊斗のスマートフォンが震えた。

「……悪い。もう牧が下に着いたみたいだな。一毬も気をつけて来いよ」

 湊斗は画面をタップしながら立ち上がると、足早に出かけて行ったのだ。
< 66 / 268 >

この作品をシェア

pagetop