非・溺愛宣言~なのに今夜も腕の中~
 倉田は手慣れた様子でマウスを操作すると、画面に何かを映し出した。

 それは研究論文のようなもので、一毬には何が書いてあるのか全く分からなかった。


「これはね、今度のプレスリリースで発表する内容なんだよね」

 一毬はもう一度、画面をじっと覗き込む。

 以前に湊斗が“近くプレスリリースとプレス発表会があるから忙しい”と話していたのを思い出した。


「プレスリリースっていうのはね、新商品とか、新しい研究成果とかをより多くの人に知ってもらうために、メディア向けに発表する文書のことなんだ」

 一毬は「へぇ」と、小さくうなずきながら倉田を見上げる。

「君はさ、うちが主に製造している医療機器って何だか知ってる?」

「えっと……微生物検査機器っていうのだけは……」

 一毬は楠木が前に話していたことを、頭の中で思い出す。

 もっと会社のことを把握しておくんだったと、少しだけ後悔していた。

「そっかそっか」

 それでも倉田は、一毬の返事を聞くと、嬉しそうにうなずいた。
< 69 / 268 >

この作品をシェア

pagetop