非・溺愛宣言~なのに今夜も腕の中~
 しばらくして、倉田はパッと笑顔に戻ると、一毬の肩にポンと軽く手をかける。

「だから《《抱き枕の一毬ちゃん》》。これからも、湊斗に優しくしてあげてよね」

 茶化すように笑う倉田の瞳の奥には、どことなくやるせなさが隠されていた。

「もう! だから、その呼び方はやめてくださいって」

 一毬は倉田に両手をグーにして見せると、わざと大袈裟に頬を膨らませる。

 そうでもしないと、倉田に悲しい顔を見せてしまいそうだった。


 一毬は研究室を出ると、とぼとぼと廊下を歩きながら、ふと窓の外に目をやる。

 目の前で葉を揺らす大きな木は、日に日に強くなってきた太陽の光を浴びながら、のびのびと自由に枝を伸ばしている。

 倉田の話を聞いて、湊斗がどれだけ真剣に仕事に向き合っているかを初めて知った。

 あの大きな木の枝のように、湊斗が余計なものに構われず、自分の想いにまっすぐに進めたら、眠りの呪いなんてなくなるのだろうか。

 一毬は胸の前で両手をぎゅっと合わせると、祈るように目を閉じた。
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