非・溺愛宣言~なのに今夜も腕の中~
 一毬はだんだんと上昇する自分の体温と、耳元で揺れる湊斗の気配を感じていた。

「仕事はどうだ? 辛くないか?」

 しばらくして湊斗が、目線を下に向けたまま声を出す。

「はい。楠木さんも皆さんもとても親切で、楽しく働いてます」

 一毬が笑顔で見上げると、湊斗が眉間に皺を寄せていた。

 一毬は不思議に思って首を傾げる。


「楠木って……親しいのか?」

「まぁ、先輩ですし。楠木さんのサポートが、私の業務なので……」

 相変わらず不機嫌な顔をしている湊斗に、一毬は困ったように目を逸らす。

 そして話題を変えるように、「そういえば」と声を出した。


「この前研究室に届け物に行って、倉田室長ともお話しましたよ」

「遼と? あいつ、この前俺が酔ったこと、文句言ってただろ?」

 一毬の言葉に、湊斗が今度は最大限に嫌そうな顔をする。

 そんな顔つきも可愛らしい。

「いいえ。むしろ湊斗さんのこと、すごく褒めてました」
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