非・溺愛宣言~なのに今夜も腕の中~
 一毬は手元のフライパンに目を向けながら静かに声を出す。

「想い?」

 湊斗はじっと一毬の手元を目で追っている。

「苦しんでいる人のために、力を使いたいって」

「あぁ、あれか。前はよくそう言ってたな……」

 しばらく間をおいてから、湊斗は顔を背けると小さく答えた。


「前は……?」

 隣から深いため息が漏れ聞こえ、一毬はそっと湊斗を見上げた。

「立場が変われば、想いだけじゃ進めないことの方が多くなる」

 そう寂しそうに言った湊斗の横顔を見つめながら、一毬の中で抑えていた感情が次第に大きく湧き上がってくる。


 ――あぁ、そうか。


 これはもう、目を背けたって逃れることはできない程、はっきりした想い。


 ――私は、湊斗さんの支えになりたいんだ。


 突然隣で眠れと言われて始まった同居生活。

 それでも次第に一毬の心は湊斗に惹かれていた。

 湊斗が抱える“眠りの呪い”を解くことができたら……。

 一毬は意を決すると、赤く染まった頬のまま湊斗に向き直った。
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