非・溺愛宣言~なのに今夜も腕の中~
「湊斗さんは、世の中の大勢の人のために力を使える人です。私には、そんな力はありません」

「一毬?」

 湊斗が不思議そうに首をかしげている。

「でも私の小さな力で、湊斗さんの心が安らいで、湊斗さんが自分の想いにまっすぐ進めるようになるのなら……私はこの先も、あなたの隣で眠りたいって思うんです」

 潤んだ瞳で見上げる一毬の前で、湊斗がはっと息をのんだ。


 静かな室内には、ドーナツの揚がる音だけが響いている。

 次第にその音がパチパチと乾いた音を立てだしたとき、湊斗が一毬の手をそっと握った。

「一毬……俺は」

 かすれた声でつぶやく湊斗の表情は、いつもの自信のある顔つきではない。

 一毬は湊斗の次の言葉を待つ。


 そして湊斗が口を開きかけたその時、パチパチッと大きな音を立てて、フライパンの中で油がはねた。

 一毬はびくっとして振り返り、同時にするりと湊斗の手が離される。

「あちち」

 一毬は慌ててトングをつかむと、ドーナツを一つずつトレーにあげていく。
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