非・溺愛宣言~なのに今夜も腕の中~
 一通りドーナツを取り終え、フライパンのスイッチを切った一毬が振り返ると、湊斗はもうソファの方へ歩いて戻るところだった。

「……悪い。もう少しこっちを片付けるから。お前それ、ひとりで食べるなよ」

 ドーナツを指さしながら、口元だけを引き上げる湊斗の表情はさっきとは違う。

 いつもの表情に戻った湊斗はもうきっと、さっきの言葉の続きは言ってくれない。

 一毬は心の奥がチクチクと痛みだすのを感じていた。


「もう! ひとりじゃ食べきれませんから!」

 一毬はわざと大袈裟に口を尖らせると、湊斗に背を向けるようにキッチンに視線を移した。

 次第に潤んでくる瞳を感じながら、一毬は湊斗に触れられた感触が残る左手をそっと胸に当てる。


 一毬の手を握ったとき、湊斗の表情は何か思いつめるものがあった。

 でも……。


 ――やっぱり私には、愛される余地なんてないんだ……。


 揚がりすぎて、ところどころ色が濃くなったドーナツは、まぶしたグラニュー糖の隙間から、ほのかに苦い味がした。
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