非・溺愛宣言~なのに今夜も腕の中~
 一毬は少しだけほっとすると、下を向きながらまた楠木の隣を歩きだす。

「どうして、そう思ったんですか?」

 しばらくして、小さく出した一毬の声に、楠木は「うーん」と考える素振りをみせる。

「佐倉さんのこと、よく見てるからかな。それに社長は、佐倉さんのこと大切にしてるみたいだし」

 伺うように覗き込む楠木の視線に、一毬は慌てて首と手を大きく横に振る。

「私は社長の、大切な人なんかじゃないですよ……」

「え? そうなの?」

「はい。私には、一ミリの可能性もないらしいです」

 つい口からこぼれた一毬の本音に、楠木がぴたりと足を止める。

 不思議に思って一毬が後ろを振り返ると、楠木がまっすぐとこちらを見ていた。

 その表情に、一毬はドキッとして立ち止まる。


「そっか。それじゃあ……」

 楠木はそう言いながら静かに歩み寄ると、そっと一毬の前髪に手を伸ばした。

「僕には、一ミリの可能性があるってことだよね?」

「……え?」

 言われた言葉の意味が、頭の中で処理できない。
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