非・溺愛宣言~なのに今夜も腕の中~
 楠木はどういうつもりなのだろう。

 恨めしく楠木の背中を見送る一毬に、湊斗のいぶかしげな視線が刺さる。

 明らかに湊斗は疑っているような目つきだ。


「お前、楠木と随分と親しそうだったな」

 湊斗はいつになく低い声を出す。

「楠木さんは、尊敬できる先輩ですから」

 楠木から告白めいたことを言われたと、湊斗に悟られたくない。

 一毬はまだ動揺している心を押さえつけるように、できるだけ淡々と声を出す。


「それより、湊斗さんこそ珍しいですね。こんな所で……」

 一毬が話題を変えようとすると、軽いため息が隣から聞こえた。

「寄るところがあったからな」

 そうぶっきらぼうに答えた湊斗の姿を横目でとらえた一毬は、その手に握られたものを見て、途端に息が苦しくなる。


 湊斗が持っていたのは、淡いパステル調の色で統一された花束だった。

 華やかに開くガーベラに、可憐なピンク色のラナンキュラスやバラが彩っている。
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