非・溺愛宣言~なのに今夜も腕の中~
『社長ってさ、時々花束抱えて出かけるの。デートでもしてるんじゃないかって、もっぱらの噂』

 吉田の言葉がふいに蘇った。


 ――いかにもお嬢様って呼ばれる女性(ひと)が、好きそうなお花……。


 こんな花束を前にして、一毬は自分がいたたまれなくなってくる。

 さっと目を逸らすと、その場から逃げるように会社に向かって歩き出した。


「おい、一毬!」

 何も言わずに歩きだした一毬を、湊斗が早足で追いかけてくる。

「楠木と、何話してたんだ?」

 長い足ですぐに追いついた湊斗は眉間にしわを寄せながら、不満げな声を出した。


「……ただの、ランチの帰りです」

「ただのランチで、後輩の髪に触ったりするのかよ」

 湊斗が苛立った声を出す。

「別に……私が誰と何しようが、湊斗さんには関係ないじゃないですか!」

 珍しく声を荒げた一毬に、湊斗は驚いた顔で目を丸くすると、ぴたりと口を閉ざしてしまった。


 ――だって湊斗さんには、大切な女性(ひと)がいるんでしょう? だから、あの続きを言ってくれなかったんじゃない……。
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