非・溺愛宣言~なのに今夜も腕の中~
 見上げた先では、湊斗がじっと一毬を見つめていた。

 自分を静かに見つめる湊斗の瞳が、何を思っているかはわからない。


「あの……。お取込み中すみません。社長に一点見ていただきたいものが」

 すると入り口の方から声が聞こえ、白衣姿の男性がそっと顔を覗かせている。

 湊斗は男性を見ると、何も言わずに隣の部屋へと出ていった。


 一毬は湊斗の背中を見送ってから、頭をかいている倉田を振り返る。

「湊斗もさ、同じ気持ちだと思ったんだけどな」

 倉田はため息をつくと、そのままデスクに腰かけた。


 今の状況を変えたいとは、研究のことではないのだろうか。


 ――すべてのことが“眠りの呪い”に関係してるの? 


 でも、今の一毬には何一つ真実はわからない。


「あの、私を“部屋に入れた”って、どういう意味ですか?」

 眉を寄せる一毬に、倉田は口元だけを引き上げる。

「うまくは言えないんだけどさ。湊斗自身も心の中では、先に進みたいんじゃないかと思ってね。まぁ、俺の邪推かもしれないけど」

 倉田はそれだけを言うと、寂しそうにほほ笑んだ。
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