非・溺愛宣言~なのに今夜も腕の中~

強引な誘い

「そうそう、佐倉さん。プレス発表会の当日は、資料準備があって結構忙しいから。覚悟しといてね」

 定時を過ぎフロア内がざわつきだしたところで、吉田が一毬に声をかける。

 一毬は引き出しから取り出した鞄を膝に置くと、吉田の顔を見上げた。


 プレスリリースと、それに合わせたプレス発表会は数日後に予定されている。

 配布資料は社外秘の最重要書類で、鍵付きのフォルダに入っており、限られた人しか見ることができない。

 情報漏洩を恐れて資料は当日に印刷するのだが、その準備を総務部が担当することになっているのだ。


 ――倉田さん、結構気軽に私に資料見せてたけどな……。


 どうせ一毬が見たって、チンプンカンプンな内容だ。

 倉田もそれをわかってて、あんなに気軽に見せたのだろう。

 そんな事を考えながら「頑張ります」と吉田に笑顔を返した。


 フロア内も静かになって来た頃、一毬はそっと隣の楠木を盗み見る。

 今日の楠木は朝からずっと、ディスプレイを食い入るように見つめていた。
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