非・溺愛宣言~なのに今夜も腕の中~
 ――湊斗さん、楠木さんのこと気にしてたんだよね……。


 一毬が返答に困っていると、楠木がすかさず一毬の鞄を持ち、さっと入り口に向かって歩き出した。


「楠木さん?!」

 一毬はぎょっとすると、慌てて楠木の後ろ姿を追いかける。

 エレベーターホールで追いついた一毬は、そのまま楠木を追うように到着したエレベーターに乗り込んだ。


 総務部のフロアはビルの上層階に位置している。

 エレベーターが各階に止まるたび、個室の中は仕事を終えた社員であふれていった。


 壁際に追いやられた一毬は、ぎゅうぎゅうになった室内で楠木と隣どおしぴったりとくっつく。

「か、鞄返してください……」

 一毬が下を向いたまま小さく声を出した。

「どうしよっかなぁ」

 楠木はわざとらしく意地悪な笑みを浮かべると、一毬の耳元に顔を寄せた。

「一緒に食事してくれるんなら、返してあげる」

 楠木はこんな小悪魔キャラだったのだろうか?

 一毬が目を丸くして顔を上げると、楠木はにんまりと口を引き上げた。
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