非・溺愛宣言~なのに今夜も腕の中~
 一毬はしぶしぶうなずき、楠木とともにエントランスを抜けた。


「佐倉さん、この前僕が言ったこと、嘘だと思ってるでしょ?」

 楠木に連れられ、駅近くのダイニングカフェに入った一毬は、目の前で楠木の端正な顔に覗き込まれ、頬を真っ赤にしながらうつむいた。

 楠木はくすっと笑うと、チューリップのような丸みのあるおしゃれなビアグラスを傾ける。

 楠木は一つ一つの動作がスマートで洗練されている。

 なんとなくそれは、湊斗と通じるものがあった。


「なんで私なんかに興味を持ったんですか?」

 テーブルに置かれたジンジャエールを、ゴクッと飲み干して、一毬は声を出す。

 楠木は黙ったまま、静かに一毬を見つめていた。


「……必然かな」

 小さくつぶやくように声を出す楠木に、一毬は首を傾げる。

「必……然……?」

「そう。つまり、君以外はあり得ないってこと」

 再び笑顔で顔を覗き込まれ、一毬はまた顔を赤くした。


 今までの人生で、こんなにもストレートに好意を向けられたことはない。

 こういう時どう対処したらいいのか、一毬にはその術がわからなかった。
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