スパダリ御曹司のお相手が、私でいいのでしょうか?~一晩だけのはずが溺愛が終わりません~
レッスン5.5.恋のラリーが続かない
「お、来たな」
「悪いな、明音。急に押しかけて」
「気にするなよ。麻里もタキに会いたがってたし」
この日久志は明音の住まいである木造の一軒家にやって来ていた。昭和を思わせる古びた佇まいは、築四十年は優に超えているだろう。この界隈の名士と名高い槙島家の長男である明音が、こんなところに住んでいるとは誰も思わない。
「いらっしゃいませ〜。貴方がタキさん?噂通りのイケメンですね!」
短い廊下の先にあるこじんまりした居間までやってくると、明音の妻、麻里が出迎えてくれた。彼女は首が座ったばかりの赤ん坊を抱っこしていた。明音の長男である透だ。明音そっくりの人懐こい笑顔で「あばあ」と久志にも愛想を振り撒く。
ちゃぶ台の前に置いてある座布団に正座すると、麻里がビールとつまみを出してくれた。
相談したいことがあると明音に伝えたところ、それなら家まで来いと招待を受けた。他人に何かを相談することがないに等しい久志の頼みがよほど珍しかったのだろう。