スパダリ御曹司のお相手が、私でいいのでしょうか?~一晩だけのはずが溺愛が終わりません~
「このスポンジ、ボロボロじゃない!」
「すみません!」
「ちょっと、この汚らしいチークはなにごと!?」
「ごめんなさい!」
まるで鬼コーチのようにビシバシと教育的指導が入る。使える、使えないをひとつずつ選別していく露希の目が瀧澤からもらったあのルージュに釘付けになる。
「ん?なかなか良い色のルージュを持っているじゃない。光莉の趣味?」
「これは頂き物で……」
「この使えそうなルージュを軸にメイクしましょう」
露希は光莉をメイク台に座らせ、自身のメイク道具も使いながら、メイクを施していった。
「どう?」
鏡の前の自分は別人のようだった。厚く塗るだけのファンデーションが、露希の手にかかると見違えるよう。
ベースメイクを変えただけで随分と明るい印象に変わる。しゅごい。
「仕上げはこれね」
「映画の鑑賞券ですか?」
露希から二枚の縦型の紙を渡される。特別鑑賞券は劇場に行くと一枚につき座席指定券一枚と引き換えてもらえることができるものだ。
「そう。なんと私が主演よ」
「え!?」
鑑賞券をよく見れば確かに、券の中央にただずんでいるのは露希だった。しゅごい。
「このペア鑑賞券をダシに男性とデートしてきなさい」
「デート!?」
「次に会う時に映画の感想を聞くから。見に行かないと許さないわよ」
ジロリと睨まれ、光莉はひえっとうめいた。
露希の言い分は横暴のひと言に尽きるのだが、不思議と嫌な気分はしなかった。
露希の態度の節々に光莉をどうにかしてやろうという思いが隠されていたからだ。