スパダリ御曹司のお相手が、私でいいのでしょうか?~一晩だけのはずが溺愛が終わりません~

(そういえば、瀧澤専務の話ってなんだったんだろう……?)

 話があると言われたにも関わらず、結局最後まで聞けずじまいだ。

「緊張しているのか?」
「はい。少しだけ……」
「そうか」

 瀧澤は仏頂面で、左腕の腕時計を眺めた。
 ポーカーフェイスはいつものことなのに、なんだか泣きそうになる。
 表情が豊かとは言いづらいが、瀧澤の纏う雰囲気は柔らかく、いつもはにかみながら光莉に笑いかけてくれた。あれは特別だったんだと、今になって思い知る。

 そうこうしている内に、時間になりお見合いがスタートした。
 堅苦しい釣書もない。仲人もいない。お見合いだと言われていたが、互いの交流を促すためのちょっとした食事会という位置付けが正しいように思えた。
 しかし、安西夫婦は本気のようで、瀧澤とともに藤の間にやってきた光莉を大歓迎してくれた。
 テーブルに肘をついていた征也はヒラヒラと手を振り、光莉に秋波を送る。

 繊細な味付けの懐石料理に舌鼓を打ちつつ、お見合いは和やかに進んだ。共通点でもあるテニスの話題でことのほか会話は弾んだが、正直何を話したか覚えていない。
 征也は憧れのプロテニス選手であり、明るくさっぱりとした性格に好感は持てたが、それ以上の感情は特に湧いてこなかった。

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