スパダリ御曹司のお相手が、私でいいのでしょうか?~一晩だけのはずが溺愛が終わりません~
シンガポールの思い出をしみじみ振り返っていると、食事の時間がやってくる。
キャビンアテンダントが機内食を配りだすと隣の座席に座っている女性が、困ったように何かを探し始めた。光莉は流暢な中国語で隣席の女性に話しかけた。
『テーブルはこのスイッチを押すんですよ』
『あら、ありがとう。日本人なのに中国語が上手なのね?』
『仕事で一年半、シンガポールに住んでいたんです』
光莉は自信たっぷりでそう言った。
(もう!こんな日に限って!)
シンガポールを出発した飛行機は天候不順もあり、二時間も遅れて成田空港に到着した。
入国の手続きとスーツケースの受け取りを済ませると、ようやく到着ロビーに降り立つことができた。
馴染みのある日本の空気に安心する。しかし、のんびり呆けている場合ではない。
(マンションに帰って、シャワー浴びよう)
シンガポールに転勤が決まってから、就職以来ずっと住んでいたアパートを解約した。不要なものは処分し、必要な荷物は久志のマンションにおいてもらっている。まるで、光莉の帰る場所はここだと忘れないように。
(えっと……リムジンバスのチケットはどこで買うんだ?)
時刻は十四時。昼間の成田空港は到着ロビーは長旅を終えた客でごった返していた。大きなスーツケースを抱えながら、成田から電車で帰るのは辛い。
その時、バス乗り場を探していた光莉の目にとんでもないものが飛び込んでくる。