スパダリ御曹司のお相手が、私でいいのでしょうか?~一晩だけのはずが溺愛が終わりません~
「なるほど。わかった」
瀧澤は神妙な顔つきで頷いた。
光莉はうっかりニヤつかないよう、必死に唇を噛み締め我慢した。
無垢な子供のように光莉の言うことを頭から信用している様が、可愛いなと思ってしまったのだ。
光莉は初心者の瀧澤でも扱いやすそうなラケットをいくつか見繕った。
「試しに振ってみましょう」
瀧澤はジャケットを脱ぐと、右腕でラケットを振った。
うんうん。なかなかいい感じだ!
「これにする。一番振りやすい気がする」
何度か振ってみた結果、三本目に振った国内メーカーのカーボンフレームの一本が気に入ったらしい。
ラケットが決まるとシューズやグリップテープ、練習用のウェアや、ラケットケース、その他小物など。必要な物を一通り購入し、一時間ほどで買い物を終え店を出る。
「連絡先を教えてくれ」
「あ、はい」
買い物終わりにメッセージアプリのIDを交換した。『おともだち』の一覧に瀧澤の名前が追加されると、なんとも言えない後ろめたい気分に襲われる。
図らずも瀧澤のプライベートな連絡先をゲットしてしまった。言わずもがな瀧澤にお近づきになりたい女性社員が喉から手が出るほど欲しい情報だ。
「待ち合わせ場所は追って知らせる」
「わかりました」
「出水さん、引き受けてくれてありがとう」
急に礼を言われ、光莉は驚きのあまり一瞬言葉を失った。
専務という偉い立場の瀧澤から礼を言われるなんて、思ってもいなかったのだ。光莉は慌てて両手を横に振った。
「いいえ!とんでもないです!」
「それでは土曜日に」
瀧澤はそう言うと大量の購入品を腕に抱えて帰って行った。
最初から最後まで掴み所のない人だった。