スパダリ御曹司のお相手が、私でいいのでしょうか?~一晩だけのはずが溺愛が終わりません~
レッスン1.極秘ミッション始動!
今思えば、朝から良くないことばかりが続いていた。
先週買ったばかりのパンプスは足を入れた途端靴底がベロンと剥がれてしまったし。
出勤時にはホームドアの不具合とやらで、満員電車の中で二十分も待たされた。
いつも食べている安くてボリュームたっぷりの野菜炒め定食は、食材の発注ミスだとかでこの日に限って品切れ。
(お祓いとか行ったほうがいいのかなあ……)
近年稀に見るトラブル続きに、光莉は昼過ぎにはすっかりげっそりしていた。なんなら一キロぐらい痩せた気分。
こうまで悪いことが重なると、不穏なものを感じる。
都合の良い時だけ神仏に祈るような不届ものではあるが、賽銭をはずめば神様は優しくしてくれるだろうか。
仕事帰りに寄れそうな手頃な神社はないものかと、満腹で気怠い午後を過ごしていた矢先に、これまでの出来事は序章にすぎなかったのだと確信する大事件が発生する。
「い、いいい、出水さん!瀧澤専務がお呼びだ!す、すぐに役員室に行きなさいっ!」
受話器を置いた法人営業部の部長は、しどろもどろになりながら光莉に指示を飛ばした。丸縁眼鏡がトレードマークの部長は今にも倒れしまいそうな青い顔になり、こめかみからは滝のように冷や汗が噴き出ていた。
普段は「いつも頑張ってるね」と光莉にお菓子をくれる菩薩のような部長が、今はチワワのようにプルプルと震えている。