スパダリ御曹司のお相手が、私でいいのでしょうか?~一晩だけのはずが溺愛が終わりません~
電車で帰るという奈緒を駅まで送ると、瀧澤の車は光莉の住むアパートに向かった。練習の後はいつも家まで送ってもらっている。
最初は断っていたのだが、平日夜などは帰りが遅くなることもあり、瀧澤の善意に甘えるようになった。
「来週はいよいよ本番か……」
「もしかして緊張してます?」
「まあ、それなりに……」
光莉は助手席から瀧澤の横顔をじいっと眺めながら、失礼な感想を抱いていた。
(瀧澤専務も人並みに緊張することがあるんだ……)
いつもクレバーで、焦ったり、声を荒らげたりすることのない瀧澤が弱気になっている。
大舞台を前にした緊張と不安には光莉にも心当たりがあった。
「そういう時は練習のことを思い出すんですよ。身体が覚えるくらい練習したんだから!って。きっと大丈夫ですよ。あれだけ練習したんですから!うまく出来ますって」
「君らしい励まし方だな」
瀧澤は口角を少し上げ、ククっと小さく笑った。普段は滅多に笑わない人だけに、破壊力がすごい。
(なにこれ……!)
光莉の顔は一気にゆでだこのように真っ赤になった。頬の火照りは見慣れた三階建てのアパートの前に到着するまでおさまらなかったのだった。