スパダリ御曹司のお相手が、私でいいのでしょうか?~一晩だけのはずが溺愛が終わりません~
(うう……なんだろう。怖いよ~!)
光莉はビビりながら法人営業部のある十階からエレベーターに乗り、役員フロアである三十階に降り立った。
老舗インテリアメーカー、TAKIZAWA自慢の本社ビルは丸の内エリアの中心部に屹立している。
エレベーターホールの全面ガラス張りの窓からは、いくつもの摩天楼が天に届かんばかりに真っ直ぐ伸びているのが見えた。
眼下には延々と続く道路、忙しなく流れていく自動車、等間隔に植えられた街路樹、そして豆粒大のサラリーマンの姿。
四月上旬の桜の季節とあって、ピンク色の樹木がちらほらと混ざっている。
しかし、今の光莉には景色に心を奪われている余裕は一ミリもなかった。
TAKIZAWAが手掛ける日本の木工加工技術とモダンなデザインを掛け合わせたインテリアの数々は、計算し尽くされた精密な細工と細部までこだわった意匠に定評があり、日本国内のみならず海外からも高く評価されている。
特に『エレガントシリーズ』と名付けられたハイクラス向けのプライベートブランドは海外セレブにも広く愛されている。
世界に名を轟かせているTAKIZAWA本社ビルの最上階からの眺望は、間違い無く素晴らしかった。今日は良く晴れていたおかげで、空の向こうに副都心やスカイツリーまで見える。
光莉がTAKIZAWAに入社したのは五年前のことだ。
広めのおでことやや大きめの鼻が特徴の可もなく不可もない平凡な顔立ちに、癖のある焦茶色のセミロングヘア。
元気と根性だけは人一倍ある粘り強い性格ではあるが他に特筆するところのない光莉が、悲願の上場も果たし飛ぶ鳥を落とす勢いだったTAKIZAWAの入社試験と面接を突破できたのは奇跡に近い。