スパダリ御曹司のお相手が、私でいいのでしょうか?~一晩だけのはずが溺愛が終わりません~
スイートルームで一晩過ごして以降、瀧澤と会う機会がめっきり減った。
元々、平社員と専務という関係上、社内でたまたま見かけるという偶然に恵まれることもない。接待テニスという目的が果たされ、報酬を受け取った今となっては、二人をつなぐものは何もなかった。
そういえば、上海出張を終えたばかりの瀧澤から一通だけ、メッセージが届いた。
『今日、日本に戻って来た』
必要事項のみを伝えるシンプルな文面に、光莉は『出張お疲れ様でした』と労いのメッセージを送り返した。
お互い、あの夜の出来事には一切触れない。むしろ触れてはいけないような気すらした。
「光莉ちゃん、行くよ!」
「はい!」
光莉はこの日、柳瀬と得意先に出掛けるためにTAKIZAWA本社ビルを元気よく出発した。
ジメジメとした湿気の多い季節になり、外に出て数分で身体から汗が噴き出てくる。光莉は額の汗をハンカチで拭った。
(あっつ……!)
瀧澤と会わないうちに季節は進み、今年はことさら暑さの厳しい夏になった。
猛暑日という単語が連日トップニュースとなり、世間を賑わせている。
例の夜から三週間が経った今でも、ふとした拍子に瀧澤のセリフを思い出す。
雨上がりに虹を見つけた時とか、ビル風が頬を撫でた時とか、通勤電車から外を眺めている時だとか。
何の変哲のない些細な日常の中にこそ、変化は起こった。