スパダリ御曹司のお相手が、私でいいのでしょうか?~一晩だけのはずが溺愛が終わりません~
そそくさと片付けを終え、後続のプレーヤーにベンチを譲り運営のテントまで逃げ帰る。次の試合の時間を確認すると、一時間後の予定となっている。それまでに少しでも調子を取り戻しておかなければ。
「出水さ〜ん!試合お疲れ様。良かったらこれから軽く打たない?」
ホワイトボードに掲示されているトーナメント表を眺めていると、光莉の胸中を何も知らない安西会長からのほほんとした口調でラリーに誘われる。
「運営に専念するとおっしゃってませんでした?」
「見てたら打ちたくなってきたんだ。ちょっとだけ付き合ってよ」
「構いませんよ!私もちょっと打ちたいなって思っていたので」
「着替えてくるから、ちょっと待っててくれ!」
安西会長は嬉しそうにそう言うと、ウェアに着替えるためにクラブハウスに走って行った。
「相手をしてくれてありがとうね。本当は自分も参加したくてうずうずしてたのよ、あの人」
「いいえ!全然平気です!」
安西会長ほどテニスが好きで、普及活動に力を入れている人はいない。同じ競技者として嬉しくなる。
着替えを待つ間、安西夫人がパイプ椅子に座るようすすめてくれた。
「運営の手伝いまで一緒にされて、お二人は本当に仲がよろしいんですね」
「これでも、昔は色々と喧嘩もしたのよ?あの人、仕事ばかりで子育てはなーんにも手伝ってくれなかったもの」
安西夫人は愚痴を交えながら、人生という荒波を共に乗り越えてきた夫婦仲を語った。仲睦まじくて羨ましい限りだ。