スパダリ御曹司のお相手が、私でいいのでしょうか?~一晩だけのはずが溺愛が終わりません~

「大丈夫か?」

 瀧澤の声がどこか遠くに聞こえる。身体の異変は急速に光莉を蝕んでいった。
 
「出水くん!」

 足に力が入らずガクンと傾いだ光莉を瀧澤が抱き止める。

「すみません……ちょっと立ちくらみが……」
「顔が真っ赤だ。体調が悪いなら棄権しよう」

 棄権なんてとんでもない!
 光莉は心配をかけまいと、懸命に笑顔を作った。

「いいえ!大丈夫です!」
「……そんな顔色で大丈夫なはずがあるか!なぜ正直に言わない?」

 大きな声で叱られて、光莉はついビクッと肩を震わせた。声を荒らげる瀧澤は初めてだった。
 
「棄権します」

 瀧澤は審判にそう言うと、光莉を庇のある観客席に連れて行った。
 タオルを枕にして横になると、いかに自分が無理をしていたかわかる。

(ダメだ……。一度横になると起き上がれそうにない……)
 
「熱中症かもしれない。身体を冷やすものをもらってくる」

 瀧澤が運営テントに走っていき、ひとりになると途端に自己反省会が始まる。

(本当に今日はとことん良いとこなしだな……)
 
 涼しい日陰で横になり、スポーツ飲料をチビチビ飲むと、光莉の体調は徐々に回復していった。
 保冷剤で身体を冷やしながら、団扇で仰いでもらうという王様のような待遇で、甲斐甲斐しく世話を焼いてもらった光莉は恐縮しっぱなしだった。

「すみません、私……」
「謝ることはない。君はよくやった」
 
 途中棄権のため、結果はベスト4。優勝は光莉達が対戦していたあのペアだった。
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