スパダリ御曹司のお相手が、私でいいのでしょうか?~一晩だけのはずが溺愛が終わりません~
「お、来たな。久し振り、久志くん」
「お久し振りです。比呂人さん」
エンジン音を聞きつけたのか、一軒家の中から家主が現れた。三十代後半のツナギ姿の男性は瀧澤を親しげに下の名前で呼ぶと握手を交わした。
「出水さん、こちらは片桐比呂人さん。このアトリエの主人で家具職人だ。比呂人さんにはTAKIZAWAの家具修理サービスを委託している」
「家具修理サービス?」
「そうだ。TAKIZAWAのインテリアを愛用している顧客に向け、傷んだパーツの交換や補修を行っている。昨年始めたばかりだがな」
「そうそう」
比呂人はそう頷くと、瀧澤と一緒にミニバンから祖父の椅子を下ろした。
「これが例の椅子?」
「はい」
比呂人は険しい眼差しで、椅子の状態をまじまじと確かめた。
「……パックリいってるね。ここまで割れてると補強してももう使えないな」
「ではこちらのパーツに付け替えてください」
瀧澤はビニールに包まれた、真新しい座面パーツをミニバンから取り出した。
「あ、新しい座面のパーツも持ってきたの?うん、それなら取り替えるだけだからいけるよ」
「本当ですか……!?」
光莉の表情がぱあっと明るくなる。
椅子が直るなんて信じられない!
自分の不注意で椅子を壊してしまってから、悔やみ続けていた。直せるなら、こんなに嬉しいことはない。