その道にひそむもの
信号の色が変わって、わたしたちは一緒に歩き出した。
それから、今日の授業のこと、先生の言い間違いのこと、当たり障りのないことをしゃべりながら一緒に歩いた。
だんだん話題がなくなってくる。目についたものを口にしてみるけど、続かない。
何が好きかとかハマってるかとかまで踏み込めない、もっと話したいような、話題がなくてつらいような、この子だって迷惑なんじゃないかなとか考えちゃう居心地の悪さ。
しばらく歩いたところにある信号を渡って、耐えられずに思い切って言った。
「わたし、こっちから帰るね」
斉藤さんはびっくりした顔をした。それから、怯えた顔になった。
「脇山道とおるの?」
「え、あ、うん、昨日みつけて。こっちから近そうだし」
「そうなんだ……」
なんとなく端切れ悪く口籠ごもった。気を悪くしちゃったかな、あからさまに避けたみたいに思われたかな、と不安になった。別に斉藤さんが嫌なわけじゃない、どうしたらいいか分からない自分が嫌なんだ。
斉藤さんは視線を足元でうろうろさせてから、思い切ったように言った。
「ねえ、矢口さん。あの……暗いし。遠くてもこっちのほうが」
そう言ってくれて、わたしは嬉しいのか恥ずかしいのかわからない感情で何故かカッと赤くなった。
迷惑じゃなかったかも。一緒にいてもいいやって思ってくれてるかも。思ったけど、なんとなく引っ込みつかなかった。単純に義務感で言ってるのかもしれない、空気読めって思われてるかもしれない。
「大丈夫だよ! 暗いくらいがスリルあるし!」
「あ、うん、でもほら、痴漢とかさ……」
こんな誰もいなさそうな道で痴漢出るかな、いや、人がいないから出るんじゃん、でもそもそも人通ってないし……とぐるぐるした。わたしたち以外に今道を歩いてる人もほとんどいない。
「大丈夫! 大丈夫! わたしなんか襲われないよ!」
なぜか卑屈になって言ってしまった。
斉藤さんは、まだ何か迷ってるようだった。
「あの……この道のこと、誰かに聞いた?」
「えっ」
わたしの反応で、斉藤さんはますます暗い顔になった。
「あのね、変な話なんだけど、ここ通るとき、絶対に振り返らないでね」
「え、なんで?」
真面目な顔で変なことを言われてわたしは変な声が出た。