出会ったのは間違いでした 〜御曹司と始める偽りのエンゲージメント〜
「本当に……皆上先生のご子息なんですよね? さっきの高木さん、でしたっけ。最初からご存知だったんですか?」

 実乃莉は矢継ぎ早に謎に思ったことを質問する。それに物憂そうな表情をして龍は椅子の背にもたれかかった。

「まあ、話はあとだ。あんた、食事はまだだよな。付き合ってくれるか? どうやら俺の待ち人は来ないらしい」
「でしたら、先ほどのお礼にお支払いは私が」
「支払いしてもらうほど何もしてない。いいから、あんたは黙って食ってりゃいい。ただの代わりだ」

 実乃莉の返事を聞く前に龍はスタッフに合図する。スタッフは遠くから『かしこまりました』とばかりにお辞儀をするとキッチンに消えていった。
 それを見届けてから龍は実乃莉に向いた。

「じゃあ、改めて。俺は皆上(みなかみ)(りょう)。年はあんたより十は上かもな。もうすぐ三十四。知っての通り、親父はあんたの爺さんとおなじ派閥の議員だ」

 笑顔もなく、なんとなく疎ましげに龍はそう言う。さっき自分で不肖の、と付けたくらいだ。あまり親子の関係は良好とは言えなさそうだった。

「私は今年二十三になります。皆上先生にお目にかかったことはありませんが、ご高名はかねがね伺っております。いつもお世話になりありがとうございます」

 実乃莉は普段から鷹柳の一人娘として公式の場に同伴することもあった。それに父の事務所の手伝いをしていることもあり、日頃からそれなりの地位にいる大人たちと関わっている。
 物怖じすることなく、実乃莉が仰々しく挨拶すると龍は眉を顰めていた。

「あんた、見た目とは違って真面目だな。度胸は相当みたいだけど」
「あれは……。すみません、お恥ずかしいところをお見せして」

 さっきの自分を思い出し、実乃莉は顔を赤らめていた。
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