出会ったのは間違いでした 〜御曹司と始める偽りのエンゲージメント〜
電話の向こうの騒めきがいっそう強まると、龍が呼びかけられている気配がした。
『悪い。もう行かなきゃ』
"行かないで"と喉元まで溢れた言葉を飲み込み、実乃莉は声を絞り出した。
「お疲れ様です。無理、しないでくださいね」
『実乃莉もな……』
龍は今、どんな顔をしているのだろう。その声は、自分と同じように、"会いたい"と言っているように聞こえた。
けれど、突然にも関わらず車で向かうほど大事な仕事をしている龍に、会いたいなんて言えるはずもなかった。
「私のことは心配しないでください。深雪さんたちがいますから」
今はこう言うしかない。虚栄を張ってでも、龍を安心させたいから。
電話の向こうからは、『そうだな』と力なく呟く声が聞こえる。そして、そのままその小さな声は自分に呼びかけた。
『……実乃莉。これから何があっても……俺を信じてくれるか?』
「龍、さん……?」
まるで、何かに怯えているように聞こえるのは気のせいだろうか。龍らしくない声色はあまりにも弱々しく自信がないように感じた。
『いや、悪い。変なこと聞いた。まるで俺が、実乃莉を信用してないみたいな言い方だな』
自分に言い聞かせるように言う龍に、ふと実乃莉は思う。
(意外と……怖がり……)
前に自分自身のことをこう言っていた。
そうは言ってもそんな姿を目の当たりにしたことはなく、俄かには信じられないでいた。でもあのとき吐露したのは、きっと誰にも言えなかった本心。今は電話越しで姿は見えなくとも、龍はそれをさらけ出しているところなのだ。
「信じます。何があっても……私は、龍さんを信じてますから」
それくらいしか自分ができることはない。そんな気持ちでキッパリと言い切ると、息を呑んだ気配が伝わってくる。
『……ありがとう、実乃莉。じゃあ切るな。また連絡するから』
「はい。待ってます」
ツーツーという音が聞こえ、電話越しの逢瀬はほんの数分で終わりを告げた。実乃莉はスマートフォンを耳から離すと画面を消した。
(龍さんも……きっと何かと戦ってる)
おそらくそれは、今回のことに全て繋がっている。誰が、何のために始めたことかはわからない。次は何が起こるのか、不安でたまらない。
けれど、揺るぎないものだけは見つけることができた。
実乃莉は一度深呼吸をすると、自分から掛けたことのない電話番号を押す。
短い呼び出し音のあと出たその人に、実乃莉は意を決して切り出した。
「……お話しがあります」
『悪い。もう行かなきゃ』
"行かないで"と喉元まで溢れた言葉を飲み込み、実乃莉は声を絞り出した。
「お疲れ様です。無理、しないでくださいね」
『実乃莉もな……』
龍は今、どんな顔をしているのだろう。その声は、自分と同じように、"会いたい"と言っているように聞こえた。
けれど、突然にも関わらず車で向かうほど大事な仕事をしている龍に、会いたいなんて言えるはずもなかった。
「私のことは心配しないでください。深雪さんたちがいますから」
今はこう言うしかない。虚栄を張ってでも、龍を安心させたいから。
電話の向こうからは、『そうだな』と力なく呟く声が聞こえる。そして、そのままその小さな声は自分に呼びかけた。
『……実乃莉。これから何があっても……俺を信じてくれるか?』
「龍、さん……?」
まるで、何かに怯えているように聞こえるのは気のせいだろうか。龍らしくない声色はあまりにも弱々しく自信がないように感じた。
『いや、悪い。変なこと聞いた。まるで俺が、実乃莉を信用してないみたいな言い方だな』
自分に言い聞かせるように言う龍に、ふと実乃莉は思う。
(意外と……怖がり……)
前に自分自身のことをこう言っていた。
そうは言ってもそんな姿を目の当たりにしたことはなく、俄かには信じられないでいた。でもあのとき吐露したのは、きっと誰にも言えなかった本心。今は電話越しで姿は見えなくとも、龍はそれをさらけ出しているところなのだ。
「信じます。何があっても……私は、龍さんを信じてますから」
それくらいしか自分ができることはない。そんな気持ちでキッパリと言い切ると、息を呑んだ気配が伝わってくる。
『……ありがとう、実乃莉。じゃあ切るな。また連絡するから』
「はい。待ってます」
ツーツーという音が聞こえ、電話越しの逢瀬はほんの数分で終わりを告げた。実乃莉はスマートフォンを耳から離すと画面を消した。
(龍さんも……きっと何かと戦ってる)
おそらくそれは、今回のことに全て繋がっている。誰が、何のために始めたことかはわからない。次は何が起こるのか、不安でたまらない。
けれど、揺るぎないものだけは見つけることができた。
実乃莉は一度深呼吸をすると、自分から掛けたことのない電話番号を押す。
短い呼び出し音のあと出たその人に、実乃莉は意を決して切り出した。
「……お話しがあります」