出会ったのは間違いでした 〜御曹司と始める偽りのエンゲージメント〜
一夜明けた祝日の月曜日。
いつもと同じ時間に鳴り始めたアラームを止めると、実乃莉はベッドから降りる。それから窓側に向いカーテンと窓を開け放った。
ほんのりと冷気を纏った空気が流れ込み、まだぼんやりしていた目を覚ましてくれる。顔を上げると、そこには雲一つない秋らしい澄み切った青空が広がっていた。
「いいお天気……」
晴れ晴れとした空は、自分の心を写し取った鏡のようだと思った。
全てが解決したわけではないし、肝心の龍からの連絡は入っていない。けれど昨日の夕方、代わりに連絡を寄越した遠坂が状況を話してくれた。
『今一斉に動き出した。主犯、実行役、他に関わった人間がまもなく逮捕されるはずだ』
そして昨日の夜。速報としてテレビに流れたのは、"国会議員秘書と有名電機機器メーカー役員が贈収賄、インサイダー取引で逮捕"と言うニュースだった。
接点のなかったはずの高木と瞳子がどうやって知り合ったのかは定かではない。けれどきっかけは間違いなく自分と龍なのだと思う。そして二人は手を組み、自分たちを陥れようとした。それがこんなに大きな事件になるなんて、実乃莉も、おそらく龍も想定外だった。
報道はされていないが、龍の会社に対する業務妨害罪や、実乃莉に対する脅迫罪や傷害罪も捜査の対象になっている、と遠坂からは聞いていた。
そして話しの最後に、遠坂は『龍の友人として、一つお願いしたいことがある』と切り出した。
『龍はああ見えて、結構繊細なんだ。君は……オズの魔法使いを知っているかい?』
遠坂の口から児童文学のタイトルが出てきたことに驚きながら、実乃莉は「……はい」と返す。
『あの作品にライオンが出てくるだろう? 僕にはあのライオンが、時々龍とダブるんだ。まぁ、あそこまで臆病でもないし、人にはなかなか見せないが』
実乃莉は前に、龍が自分のことを怖がりだと言っていたことを思い出した。そしてその姿と、自分も知っている物語を重ねてみた。
「……ということは、本当は勇敢なのに、自分には勇気がないと思っているのかも知れませんね」
実乃莉が返すと、遠坂は電話の向こうでくすりと笑う。
『君はいい魔法使いになりそうだ。これからも龍のことを頼むよ』
「龍さんが……まだ私を必要としてくれるなら……」
自信があるわけではなかった。
独断で婚約を解消したのだから、もう見限られているかも知れない。
『大丈夫だ。龍を信じてやってくれ』
優しくそう言う遠坂に、実乃莉は頷き「……はい」と答えていた。
いつもと同じ時間に鳴り始めたアラームを止めると、実乃莉はベッドから降りる。それから窓側に向いカーテンと窓を開け放った。
ほんのりと冷気を纏った空気が流れ込み、まだぼんやりしていた目を覚ましてくれる。顔を上げると、そこには雲一つない秋らしい澄み切った青空が広がっていた。
「いいお天気……」
晴れ晴れとした空は、自分の心を写し取った鏡のようだと思った。
全てが解決したわけではないし、肝心の龍からの連絡は入っていない。けれど昨日の夕方、代わりに連絡を寄越した遠坂が状況を話してくれた。
『今一斉に動き出した。主犯、実行役、他に関わった人間がまもなく逮捕されるはずだ』
そして昨日の夜。速報としてテレビに流れたのは、"国会議員秘書と有名電機機器メーカー役員が贈収賄、インサイダー取引で逮捕"と言うニュースだった。
接点のなかったはずの高木と瞳子がどうやって知り合ったのかは定かではない。けれどきっかけは間違いなく自分と龍なのだと思う。そして二人は手を組み、自分たちを陥れようとした。それがこんなに大きな事件になるなんて、実乃莉も、おそらく龍も想定外だった。
報道はされていないが、龍の会社に対する業務妨害罪や、実乃莉に対する脅迫罪や傷害罪も捜査の対象になっている、と遠坂からは聞いていた。
そして話しの最後に、遠坂は『龍の友人として、一つお願いしたいことがある』と切り出した。
『龍はああ見えて、結構繊細なんだ。君は……オズの魔法使いを知っているかい?』
遠坂の口から児童文学のタイトルが出てきたことに驚きながら、実乃莉は「……はい」と返す。
『あの作品にライオンが出てくるだろう? 僕にはあのライオンが、時々龍とダブるんだ。まぁ、あそこまで臆病でもないし、人にはなかなか見せないが』
実乃莉は前に、龍が自分のことを怖がりだと言っていたことを思い出した。そしてその姿と、自分も知っている物語を重ねてみた。
「……ということは、本当は勇敢なのに、自分には勇気がないと思っているのかも知れませんね」
実乃莉が返すと、遠坂は電話の向こうでくすりと笑う。
『君はいい魔法使いになりそうだ。これからも龍のことを頼むよ』
「龍さんが……まだ私を必要としてくれるなら……」
自信があるわけではなかった。
独断で婚約を解消したのだから、もう見限られているかも知れない。
『大丈夫だ。龍を信じてやってくれ』
優しくそう言う遠坂に、実乃莉は頷き「……はい」と答えていた。