出会ったのは間違いでした 〜御曹司と始める偽りのエンゲージメント〜
翌日は週末金曜日。
深雪は午後から検診が入っていて一足先に退社していた。残されていた仕事の手順も聞いていたし、「龍もいるから大丈夫」と深雪から言われていて安心していた実乃莉だが、不測の事態は得てしてそういうときに起こるものだ。
「なんだって?」
定位置の、パーテーションの向こうから龍の訝しげな声が聞こえたのは午後三時を回ったところだった。
電話を取っている気配がしていたが直接掛かってきたのだろう。しばらく会話したあと、「わかった。向かう」と溜め息混じりの龍の声が耳に届いた。
「悪い、実乃莉。SSでトラブってるらしい。ちょっと行ってくるわ」
こちらに向かってくると、龍は渋い顔をして実乃莉に告げる。
SS、と言うのは龍が前にいた会社だ。同業で今も協力関係にあるというその会社は、深雪の兄であり龍の昔からの友人でもある人が経営している。
深雪が龍に遠慮がないのは、龍が高校生、深雪が中学生のときからの知り合いだからだ。それに深雪は、以前SSで秘書をしていて、龍とも一緒に働いていたと聞いて実乃莉は納得していた。
「一旦戻れると思うが、時間になったら先に店に行っといて。何かあれば電話してくれていいし、他のヤツらで事足りそうだったら誰か捕まえて」
「はい。承知しました」
実乃莉が立ち上がり返事をすると、龍は「じゃ、行ってくる」と部屋を出て行く。
この部屋で一人きりになるのは初めて。心許ないが、社内には他の社員もいる。
(とにかく、深雪さんに頼まれてた仕事、終わらせよう)
実乃莉は座ると目の前の書類を眺める。印刷し、あとは封入して送るだけの請求書。実乃莉はふと、その書類に違和感を感じた。
「……嘘!」
実乃莉は思わず声に出してしまう。よくよく見ると、印字された日付は全て一ヶ月前だ。
焦りながら深雪から渡されたマニュアルを引っ張りだすと、もう一度それに目を通す。実乃莉は、記載されていた日付け変更の手順を抜かしていたことにそのとき気づいた。
深雪は午後から検診が入っていて一足先に退社していた。残されていた仕事の手順も聞いていたし、「龍もいるから大丈夫」と深雪から言われていて安心していた実乃莉だが、不測の事態は得てしてそういうときに起こるものだ。
「なんだって?」
定位置の、パーテーションの向こうから龍の訝しげな声が聞こえたのは午後三時を回ったところだった。
電話を取っている気配がしていたが直接掛かってきたのだろう。しばらく会話したあと、「わかった。向かう」と溜め息混じりの龍の声が耳に届いた。
「悪い、実乃莉。SSでトラブってるらしい。ちょっと行ってくるわ」
こちらに向かってくると、龍は渋い顔をして実乃莉に告げる。
SS、と言うのは龍が前にいた会社だ。同業で今も協力関係にあるというその会社は、深雪の兄であり龍の昔からの友人でもある人が経営している。
深雪が龍に遠慮がないのは、龍が高校生、深雪が中学生のときからの知り合いだからだ。それに深雪は、以前SSで秘書をしていて、龍とも一緒に働いていたと聞いて実乃莉は納得していた。
「一旦戻れると思うが、時間になったら先に店に行っといて。何かあれば電話してくれていいし、他のヤツらで事足りそうだったら誰か捕まえて」
「はい。承知しました」
実乃莉が立ち上がり返事をすると、龍は「じゃ、行ってくる」と部屋を出て行く。
この部屋で一人きりになるのは初めて。心許ないが、社内には他の社員もいる。
(とにかく、深雪さんに頼まれてた仕事、終わらせよう)
実乃莉は座ると目の前の書類を眺める。印刷し、あとは封入して送るだけの請求書。実乃莉はふと、その書類に違和感を感じた。
「……嘘!」
実乃莉は思わず声に出してしまう。よくよく見ると、印字された日付は全て一ヶ月前だ。
焦りながら深雪から渡されたマニュアルを引っ張りだすと、もう一度それに目を通す。実乃莉は、記載されていた日付け変更の手順を抜かしていたことにそのとき気づいた。