出会ったのは間違いでした 〜御曹司と始める偽りのエンゲージメント〜
もう一度最初からやり直し、印刷し直す。そう大変な作業ではないが、今日投函して置いてと言われていたぶん、気持ちは焦るばかりだった。
印刷されたものを、リストと間違いないか確認し封入する。集中してやり終えたいが、そういうときに限って問い合わせや営業の電話が掛かってきてしまう。
それに対応していると、今度は来客を知らせるインターホンが鳴った。
(来客の予定……あったかな?)
実乃莉は社内で共有している情報をタブレットで確認する。来客やミーティングルームの使用予定が全社員にわかるようになっているものだ。
それを確認しても予定が入っていないときは、ほぼ飛び込みの営業か荷物などの配達だ。
せっかちにもう一度鳴ったインターホンに実乃莉は応答した。
「はい」
机に設置してある、電話機と同じような端末に出ると、扉の向こうが映し出される。明らかに業者でも営業でもなさそうな女性がそこに立っていた。
『私よ。開けてちょうだい』
至極当たり前のようにそう言われ、実乃莉は戸惑っていた。今まで名乗りもせず開けてと言われたことはなく、そんな人の存在も聞かされていなかった。
「恐れ入りますが……どちら様、でしょうか?」
辿々しく実乃莉が尋ねると、『あなたこそ誰? 深雪さんじゃないわよね』とあからさまに不機嫌そうな声が返ってきた。
「もうしわけありません。失礼ですが教えていただけますでしょうか?」
もしかしたら取引先のかたなのかも知れない。それならば聞き覚えがあるはずだった。
『九度山瞳子よ。龍は? いないの?』
全く聞き覚えの無い名前に、龍と呼ぶ女性。
(ご友人……とか?)
そう頭をよぎるが、そんなことを聞くわけにいかない。どうしようと呆然としている間に瞳子は痺れを切らせたようだ。
『いつまで待たせるつもり? 私はね、龍の婚約者よ。あなた、そんなことも知らないの?』
「婚約……者?」
実乃莉は頭が真っ白になる。まさか龍に婚約者がいるなんて思ってもいなかった。
印刷されたものを、リストと間違いないか確認し封入する。集中してやり終えたいが、そういうときに限って問い合わせや営業の電話が掛かってきてしまう。
それに対応していると、今度は来客を知らせるインターホンが鳴った。
(来客の予定……あったかな?)
実乃莉は社内で共有している情報をタブレットで確認する。来客やミーティングルームの使用予定が全社員にわかるようになっているものだ。
それを確認しても予定が入っていないときは、ほぼ飛び込みの営業か荷物などの配達だ。
せっかちにもう一度鳴ったインターホンに実乃莉は応答した。
「はい」
机に設置してある、電話機と同じような端末に出ると、扉の向こうが映し出される。明らかに業者でも営業でもなさそうな女性がそこに立っていた。
『私よ。開けてちょうだい』
至極当たり前のようにそう言われ、実乃莉は戸惑っていた。今まで名乗りもせず開けてと言われたことはなく、そんな人の存在も聞かされていなかった。
「恐れ入りますが……どちら様、でしょうか?」
辿々しく実乃莉が尋ねると、『あなたこそ誰? 深雪さんじゃないわよね』とあからさまに不機嫌そうな声が返ってきた。
「もうしわけありません。失礼ですが教えていただけますでしょうか?」
もしかしたら取引先のかたなのかも知れない。それならば聞き覚えがあるはずだった。
『九度山瞳子よ。龍は? いないの?』
全く聞き覚えの無い名前に、龍と呼ぶ女性。
(ご友人……とか?)
そう頭をよぎるが、そんなことを聞くわけにいかない。どうしようと呆然としている間に瞳子は痺れを切らせたようだ。
『いつまで待たせるつもり? 私はね、龍の婚約者よ。あなた、そんなことも知らないの?』
「婚約……者?」
実乃莉は頭が真っ白になる。まさか龍に婚約者がいるなんて思ってもいなかった。