出会ったのは間違いでした 〜御曹司と始める偽りのエンゲージメント〜
「え……?」
実乃莉は思わず足を止め糸井を見上げた。
「あれ? 違う? 俺、龍さんからそう聞いてたけど」
「……いえ。参加させていただきます」
実乃莉は受けた衝撃を悟られないよう薄ら笑みを浮かべ糸井に返事をする。
(恥ずかしい……。一人で浮かれてた)
龍に誘われて、二人きりなんだと勝手に思い込んでいた。けれど冷静に考えて、プロジェクトの打ち上げを自分でする理由なんてない。龍は入社したばかりの実乃莉に他の社員と交流する場を設けただけ。そんなことが頭を過ぎり、実乃莉はうなだれていた。
「――でさぁ……って、実乃莉ちゃん、大丈夫? 元気ないけど」
会社から駅までの緩やかな坂を下りながらずっと一人喋っていた糸井は実乃莉の顔を覗き込んだ。
「あっ……すみません。ぼんやりしてしまって」
「いいよいいよ。疲れてるよね。まだ入社して一ヶ月だし。それに、瞳子さんみたいな人も相手しなきゃいけないし。あの人、龍さんの歴代彼女の中で最強だしさ」
まるで他の人も知っているという口ぶりの糸井に、実乃莉は驚きながら顔を上げた。
「糸井さん、よくご存知なんですね」
「うん。結構龍さんとは長いから。俺、SSから独立するときに着いてきたんだ。前の会社に不満があったわけじゃないけど、龍さんに憧れてて。いかにもカリスマ〜って感じでしょ? 色々伝説あるんだよ」
糸井は笑いながら楽しそうに語る。けれど、それは実乃莉にとって決して楽しい話ではなかった。
「龍さんって、あんま女運ない、つうか。結構な割合で思い込み激しい系に当たるんだよねぇ。ストーカー紛いになった人もいるし、仕事で会社に何日も泊まりこんでたら浮気疑われて会社に乗り込んできた人とか。まぁ、あの顔だし仕方ないかって周りは諦めてるけど、深雪さんはいっつも怒ってた。龍さんにだけど」
「そう……ですか……」
「あ、でも、とうとう結婚するみたいだし、もうそんなことは起こらないんじゃない?」
暗い表情を見せた実乃莉に、糸井は慌てて付け加える。実乃莉を励ましたかったのだろうが、逆効果だと知らずに。
実乃莉は思わず足を止め糸井を見上げた。
「あれ? 違う? 俺、龍さんからそう聞いてたけど」
「……いえ。参加させていただきます」
実乃莉は受けた衝撃を悟られないよう薄ら笑みを浮かべ糸井に返事をする。
(恥ずかしい……。一人で浮かれてた)
龍に誘われて、二人きりなんだと勝手に思い込んでいた。けれど冷静に考えて、プロジェクトの打ち上げを自分でする理由なんてない。龍は入社したばかりの実乃莉に他の社員と交流する場を設けただけ。そんなことが頭を過ぎり、実乃莉はうなだれていた。
「――でさぁ……って、実乃莉ちゃん、大丈夫? 元気ないけど」
会社から駅までの緩やかな坂を下りながらずっと一人喋っていた糸井は実乃莉の顔を覗き込んだ。
「あっ……すみません。ぼんやりしてしまって」
「いいよいいよ。疲れてるよね。まだ入社して一ヶ月だし。それに、瞳子さんみたいな人も相手しなきゃいけないし。あの人、龍さんの歴代彼女の中で最強だしさ」
まるで他の人も知っているという口ぶりの糸井に、実乃莉は驚きながら顔を上げた。
「糸井さん、よくご存知なんですね」
「うん。結構龍さんとは長いから。俺、SSから独立するときに着いてきたんだ。前の会社に不満があったわけじゃないけど、龍さんに憧れてて。いかにもカリスマ〜って感じでしょ? 色々伝説あるんだよ」
糸井は笑いながら楽しそうに語る。けれど、それは実乃莉にとって決して楽しい話ではなかった。
「龍さんって、あんま女運ない、つうか。結構な割合で思い込み激しい系に当たるんだよねぇ。ストーカー紛いになった人もいるし、仕事で会社に何日も泊まりこんでたら浮気疑われて会社に乗り込んできた人とか。まぁ、あの顔だし仕方ないかって周りは諦めてるけど、深雪さんはいっつも怒ってた。龍さんにだけど」
「そう……ですか……」
「あ、でも、とうとう結婚するみたいだし、もうそんなことは起こらないんじゃない?」
暗い表情を見せた実乃莉に、糸井は慌てて付け加える。実乃莉を励ましたかったのだろうが、逆効果だと知らずに。