出会ったのは間違いでした 〜御曹司と始める偽りのエンゲージメント〜
 打ち上げは駅前にあるイタリアンの個室で行われる。人気店なのか、週末ということもあり若い客を中心に賑わいを見せていた。
 到着したのは実乃莉と糸井が最後。すでに部屋には他の四人のメンバーが待っていた。

「あれ? 糸井。龍さんは?」

 一人が糸井に尋ねる。

「あー……ちょっと野暮用。先始めといてって」

 テーブルには八人分の椅子が並んでいる。その奥に二人ずつが向かい合って座っていた。どこに座れば……と戸惑っている実乃莉に糸井は声を掛けた。

「実乃莉ちゃん、ちょっとむさ苦しいけど、真ん中座ってよ。みんな実乃莉ちゃんと喋ってみたくてウズウズしててさ」
「それはお前だろー? 人をダシに使うな!」

 さっき糸井に尋ねた男が茶化している。

「うっさい。佐古(さこ)

 糸井は決まり悪そうにしながらも「さ、座って」と実乃莉を促した。

「では、失礼します」

 実乃莉が座るとその隣に糸井は座った。それからすぐにドリンクのメニューを手にすると実乃莉に差し出した。

「実乃莉ちゃん、お酒は?」
「あまり強いほうでは……」
「なら、このあたりのノンアルカクテル、美味しいよ」

 糸井はそう言いながら指をさす。そこには色とりどりのオシャレなドリンクの写真が並んでいた。

「本当ですね。ありがとうございます」

 礼を言うと、糸井はその頰をほんのり赤くしながら「どういたしまして」と照れ笑いを浮かべていた。

「糸井ぃ〜。鷹柳さんの前だからってなーにかっこつけてんだよ!」
「いや、だから佐古! うっさいって!」

 余計に頰を赤くして答える糸井さんに他のメンバーからも笑いが漏れる。実乃莉もその和気あいあいとした雰囲気に、自然と笑いがこぼれた。

 皆のオーダーしたドリンクが運ばれると、それを手にした人は自然に一人に向いた。

「じゃ、龍君の代わりに僕から一言」

 おそらく龍より年上だと思われる男は、ビールのグラスを掲げて言う。

「よっ! 原田(はらだ)チーフ! 待ってました!」

 そう明るく合いの手を入れているのは佐古だ。糸井と同じくらい明るい男だった。
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