出会ったのは間違いでした 〜御曹司と始める偽りのエンゲージメント〜
「……とりあえず俺のことはいい。何飲むんだ? 藤田はコーラだよな。あとはビールでいいか? 実乃莉は?」

 矢継ぎ早に龍が尋ねると、実乃莉は龍の前にあったライムが飾られている淡いイエローのカクテルを指差した。

「私、それいただきます。ちょうど次に飲もうと思ってたんです。だから龍さんは、お好きなものにしてください」

 龍は渋い顔を見せると諦めたように「わかった」と答える。それから待っていた店員にオーダーを済ませた。

「――改めて。悪いな、待たせて。最初のデカいプロジェクト完了お疲れ。今日は仕事のことはいったん忘れて存分に飲んでくれ。じゃ、乾杯」

 龍がビールの入ったグラスを掲げると、みなは威勢よくそれに続きグラスを合わせていた。
 しばらく、それぞれが取り留めもない話をしながら、この店自慢の窯焼きピザを頬張っていた。
 ようやくそれが途切れたころ、タイミングを見計らったように切り出したのは、ずっとうずうずした様子の糸井だった。

「龍さん。さっきの婚約話だけど……。もしかして……」

 恐る恐るの糸井に、龍は眉を顰め肩から息を吐き出した。

「真っ赤な嘘だ」

 龍がキッパリと言うと、周りは一斉に龍に向かって話し出した。

「だと思った! 絶対に結婚したくない男の龍さんが婚約なんて!」
「だよね。いくらチーフが結婚の良さを語っても興味なさそうだったし」
「まあまあ。僕は別に、龍君に結婚して欲しくて話してたわけじゃないけど」

 口々にそんな話をされ、龍は苦い顔をする。

「とにかく。あいつとはとっくに別れてる。これから会社に来ても入れるなよ?」

 決まりが悪いのか、龍は顔を背けながらビールをあおった。

「そうなんだ。どーりで龍さん、この前の誕生日も暇そうだったわりに会社にずっといたし。おかしいと思った」
「誕生日……。最近だったんですか?」

 周りの勢いに圧倒され、全く口を挟めなかった実乃莉は、糸井のその言葉にようやく言葉を発した。
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