出会ったのは間違いでした 〜御曹司と始める偽りのエンゲージメント〜
「どこ……って?」
まさか、どこかへ行くだなんて思ってもいなかった実乃莉は戸惑う。そんな実乃莉をよそに、佐古からも声が上がった。
「おーい。糸井。お前だけずるいぞ〜。俺も参加したーい」
(そんなつもりじゃ……)
助けを求めるように龍に視線を送ると、それに気づいた龍はわずかに口角を上げた。
「どうせなら他のチームのやつらも誘ってやれよ? それでなくても今日実乃莉も参加するのを知ったヤツらにずるいって言われてるんだからな」
「しかたないなぁ。月曜だし、仕事に余裕のある人限定でね。龍さんはどうする?」
「俺か? 俺はたぶん余裕ねぇな」
それを聞いて実乃莉の胸はズキリと痛んだ。
(龍さんは……祝ってくれないの……?)
自分が暗く沈んでいくような感覚を覚える。どうしてこんなことを思うのか、自分自身にも理解できず実乃莉は困惑していた。
それからは糸井があれこれ話しをしていたが、実乃莉の頭には何も入ってこず、ぼんやりしたまま受け答えしていた。
「ってことで、また詳しく決まったら伝えるね、実乃莉ちゃん」
名前を呼ばれ、急に現実に引き戻されるとハッとして実乃莉は顔を上げた。
「……はい」
せっかく自分のために一生懸命企画してくれているのに失礼だ。そう思ってもなかなか笑顔を作れない。ぎこちなく笑みを浮かべ、実乃莉はなんとか返事をした。
そのあと話題は変わり、自分の知らない話になると実乃莉は適当に相槌を打ちながら黙々と食べた。最初は美味しく感じていたはずなのに、今は味気なく感じるのはなぜだろうか。
ときどき龍を盗み見ると、いたって普通に、楽しそうにしゃべっている。瞳子が婚約者ではなかったことが嬉しいはずなのに、自分はそんな土俵にすら乗れていない。そう思うと気持ちは落ちるばかりだ。
(ふり……って先に言い出したのは、私なのに……)
じわりじわりと、自分の心の奥から色々な感情が湧いて出る。
少しのことで嬉しくなったり、悲しくなったり。気がつけば目でずっと追っていたり。
実乃莉はようやくその感情に名前を付けた。
――知らなかった。恋がこんなに苦しいなんて。
まさか、どこかへ行くだなんて思ってもいなかった実乃莉は戸惑う。そんな実乃莉をよそに、佐古からも声が上がった。
「おーい。糸井。お前だけずるいぞ〜。俺も参加したーい」
(そんなつもりじゃ……)
助けを求めるように龍に視線を送ると、それに気づいた龍はわずかに口角を上げた。
「どうせなら他のチームのやつらも誘ってやれよ? それでなくても今日実乃莉も参加するのを知ったヤツらにずるいって言われてるんだからな」
「しかたないなぁ。月曜だし、仕事に余裕のある人限定でね。龍さんはどうする?」
「俺か? 俺はたぶん余裕ねぇな」
それを聞いて実乃莉の胸はズキリと痛んだ。
(龍さんは……祝ってくれないの……?)
自分が暗く沈んでいくような感覚を覚える。どうしてこんなことを思うのか、自分自身にも理解できず実乃莉は困惑していた。
それからは糸井があれこれ話しをしていたが、実乃莉の頭には何も入ってこず、ぼんやりしたまま受け答えしていた。
「ってことで、また詳しく決まったら伝えるね、実乃莉ちゃん」
名前を呼ばれ、急に現実に引き戻されるとハッとして実乃莉は顔を上げた。
「……はい」
せっかく自分のために一生懸命企画してくれているのに失礼だ。そう思ってもなかなか笑顔を作れない。ぎこちなく笑みを浮かべ、実乃莉はなんとか返事をした。
そのあと話題は変わり、自分の知らない話になると実乃莉は適当に相槌を打ちながら黙々と食べた。最初は美味しく感じていたはずなのに、今は味気なく感じるのはなぜだろうか。
ときどき龍を盗み見ると、いたって普通に、楽しそうにしゃべっている。瞳子が婚約者ではなかったことが嬉しいはずなのに、自分はそんな土俵にすら乗れていない。そう思うと気持ちは落ちるばかりだ。
(ふり……って先に言い出したのは、私なのに……)
じわりじわりと、自分の心の奥から色々な感情が湧いて出る。
少しのことで嬉しくなったり、悲しくなったり。気がつけば目でずっと追っていたり。
実乃莉はようやくその感情に名前を付けた。
――知らなかった。恋がこんなに苦しいなんて。