出会ったのは間違いでした 〜御曹司と始める偽りのエンゲージメント〜
和やかに終宴を迎えると店の外に出る。そろそろ秋と言われ始める季節になったが、まだまだ蒸し暑く不快な熱気が漂っていた。
「じゃあ僕はここで。お疲れ様でした」
真っ先にそう言って別れたのは原田だ。自宅は電車を使うほどの距離ではなく徒歩で通勤しているのだと言う。
駅は道路を渡ったすぐ目の前にある。そう大きな駅でもなく、今の時間は帰ってくる人のほうが多い。
自然に駅に足を向け、糸井と佐古、藤田は少し前を賑やかにしゃべりながら歩いている。その後ろに実乃莉と龍は続いた。
会社ができてまだ半年も経っていないが、あの三人が仲がいいのは前からの知り合いだからだと言う。
糸井と佐古は大学の同級生で佐古と藤田は前の職場が同じ。その縁で糸井が龍の会社に誘ったのだとさっき教えられた。
「じゃ。俺たちはここで。お疲れ様でしたー!」
駅の改札口まで来ると糸井が振り返る。三人は駅を通り抜けた向こう側の同じアパートに住んでいるらしい。
楽しそうに手を振る姿に実乃莉は「お疲れ様でした」と頭を下げる。隣で龍は「お疲れ!」と小さく手を振り上げていた。その背中が小さくなり、遠くに消えていくのを二人で見届けた。
ホッと息を吐き出す龍に、気まずく思っていた実乃莉は取り繕うように話しかける。
「龍さんは……電車じゃないですよね?」
車を会社に置いているのだから、電車通勤でないのは確かだ。実家には住んでいないとは聞いてたが、今どこに住んでいるかまでは知らなかった。
「ん? あぁ。歩いて帰る。言ってなかったか? 会社のすぐ裏のマンションに住んでるって」
「そうだったんですね……」
実乃莉は目を見張りながらそう口にした。
会社の周りは住宅街で、裏にはいくつか大きなマンションが建っている。そのどれかなのだろう。
「遅くなることも多いしな。家は近いほうが何かと便利だ」
龍は表情を崩し笑う。そんな姿にさえ、実乃莉の胸は早鐘を打っていた。
突然、龍は実乃莉を見てフッと表情を緩める。
「お前の誕生日……」
「じゃあ僕はここで。お疲れ様でした」
真っ先にそう言って別れたのは原田だ。自宅は電車を使うほどの距離ではなく徒歩で通勤しているのだと言う。
駅は道路を渡ったすぐ目の前にある。そう大きな駅でもなく、今の時間は帰ってくる人のほうが多い。
自然に駅に足を向け、糸井と佐古、藤田は少し前を賑やかにしゃべりながら歩いている。その後ろに実乃莉と龍は続いた。
会社ができてまだ半年も経っていないが、あの三人が仲がいいのは前からの知り合いだからだと言う。
糸井と佐古は大学の同級生で佐古と藤田は前の職場が同じ。その縁で糸井が龍の会社に誘ったのだとさっき教えられた。
「じゃ。俺たちはここで。お疲れ様でしたー!」
駅の改札口まで来ると糸井が振り返る。三人は駅を通り抜けた向こう側の同じアパートに住んでいるらしい。
楽しそうに手を振る姿に実乃莉は「お疲れ様でした」と頭を下げる。隣で龍は「お疲れ!」と小さく手を振り上げていた。その背中が小さくなり、遠くに消えていくのを二人で見届けた。
ホッと息を吐き出す龍に、気まずく思っていた実乃莉は取り繕うように話しかける。
「龍さんは……電車じゃないですよね?」
車を会社に置いているのだから、電車通勤でないのは確かだ。実家には住んでいないとは聞いてたが、今どこに住んでいるかまでは知らなかった。
「ん? あぁ。歩いて帰る。言ってなかったか? 会社のすぐ裏のマンションに住んでるって」
「そうだったんですね……」
実乃莉は目を見張りながらそう口にした。
会社の周りは住宅街で、裏にはいくつか大きなマンションが建っている。そのどれかなのだろう。
「遅くなることも多いしな。家は近いほうが何かと便利だ」
龍は表情を崩し笑う。そんな姿にさえ、実乃莉の胸は早鐘を打っていた。
突然、龍は実乃莉を見てフッと表情を緩める。
「お前の誕生日……」