出会ったのは間違いでした 〜御曹司と始める偽りのエンゲージメント〜
「僕はあの斎藤議員の秘書だぞ! わかっているのか!」
実乃莉はその言葉にピクリと肩を揺らした。
(え……? 斎藤……議員って……まさか)
実乃莉の顔がこわばったことに男も気づいたようだ。より一層顔を顰めている。
「もしかして、見合いの相手って後ろのあれ?」
この状況で後ろの席に聞こえてしまったら堪らないと、実乃莉は慌てて人差し指を口にあてて「シーっ」と小さく言う。そしてそのまま前のめりになると小声で続けた。
「すみません……。あなたはどなたですか?」
男のほうも状況を察してくれたのか、体を前に寄せるとテーブルに肘を付き頬杖をしながら小声で答えた。
「それ、こっちのセリフ。どうも席を間違って案内されたみたいだな」
「そのようですね……」
それがわかったとしても、いまだに喚き散らかしている男の元へ向かう気持ちになるわけはない。どうしたらいいのか思案を巡らせ実乃莉はふと思いついた。
「……あの。私の願いをきいていただけないでしょうか? お礼ならいたします」
「願い?」
「はい。どうしても、あちらからお見合いを断っていただきたくて。だから私の恋人のふりを……してもらえないでしょうか? 一瞬でいいんです。お願いします!」
実乃莉は手を合わせて頼み込む。恋人がいるとわかれば相手も引いてくれるだろう。それに賭けるしかなかった。
「それ、俺になんのメリットがあるわけ?」
呆れたような視線を向けられ、正論を投げられた実乃莉は、それに答えることができなかった。
確かに、席を間違われたうえに面倒事に巻き込まれるなんて、デメリットしかない。それでも実乃莉は今、この人に縋るしかなかった。
実乃莉はその言葉にピクリと肩を揺らした。
(え……? 斎藤……議員って……まさか)
実乃莉の顔がこわばったことに男も気づいたようだ。より一層顔を顰めている。
「もしかして、見合いの相手って後ろのあれ?」
この状況で後ろの席に聞こえてしまったら堪らないと、実乃莉は慌てて人差し指を口にあてて「シーっ」と小さく言う。そしてそのまま前のめりになると小声で続けた。
「すみません……。あなたはどなたですか?」
男のほうも状況を察してくれたのか、体を前に寄せるとテーブルに肘を付き頬杖をしながら小声で答えた。
「それ、こっちのセリフ。どうも席を間違って案内されたみたいだな」
「そのようですね……」
それがわかったとしても、いまだに喚き散らかしている男の元へ向かう気持ちになるわけはない。どうしたらいいのか思案を巡らせ実乃莉はふと思いついた。
「……あの。私の願いをきいていただけないでしょうか? お礼ならいたします」
「願い?」
「はい。どうしても、あちらからお見合いを断っていただきたくて。だから私の恋人のふりを……してもらえないでしょうか? 一瞬でいいんです。お願いします!」
実乃莉は手を合わせて頼み込む。恋人がいるとわかれば相手も引いてくれるだろう。それに賭けるしかなかった。
「それ、俺になんのメリットがあるわけ?」
呆れたような視線を向けられ、正論を投げられた実乃莉は、それに答えることができなかった。
確かに、席を間違われたうえに面倒事に巻き込まれるなんて、デメリットしかない。それでも実乃莉は今、この人に縋るしかなかった。