出会ったのは間違いでした 〜御曹司と始める偽りのエンゲージメント〜
「信用されなくても結構です。けれど私は正真正銘本物です。それより、このかたもずいぶんと謝られているようですし、このあたりで怒りを鎮められたらどうですか?」
今まで従順だった自分が信じられないくらい、実乃莉は年上の男性に立ち向かっていた。この見た目がそうさせているのかも知れない。おとなしそうと言われていた今までとは違う姿の自分に、なぜか勇気が出た。
「僕はお嬢さんに会ったことがあるが、お前のような女じゃなかったぞ! それとも何か? 僕の面子を潰して恥をかかせようとしているのか?」
「そうではありません。ただ、見たところそう被害もなさそうですし、周りにも迷惑ですので、そろそろ静かになさったらどうかと思いますが」
あくまでも実乃莉は静かに淡々と相手に告げている。だが、相手の男はその態度が気に入らないようだ。
「生意気な……。なら、お前が代わりに謝れば許してやる。その床に膝を突いてな。どうだ、そんなことはできないだろう!」
(なんて男なの? こんな人が将来政治家? 冗談じゃないわ!)
実乃莉は悔しくて唇を噛む。
隣でオロオロと様子を伺っていたスタッフの男性は「お客様! それは私が……」と実乃莉に声を掛けた。
「わかりました。私が謝罪したあとは退店いただけますよね?」
「しかたないが、そうしてやろう」
男はニヤついた下衆な顔で言う。
実乃莉がグッと手を握りしめ膝を突こうと身を屈めたときだった。
「実乃莉。そんなことしなくていい」
フワリとスパイシーな香りがしたかと思うと、実乃莉は肩を抱かれていた。
今まで従順だった自分が信じられないくらい、実乃莉は年上の男性に立ち向かっていた。この見た目がそうさせているのかも知れない。おとなしそうと言われていた今までとは違う姿の自分に、なぜか勇気が出た。
「僕はお嬢さんに会ったことがあるが、お前のような女じゃなかったぞ! それとも何か? 僕の面子を潰して恥をかかせようとしているのか?」
「そうではありません。ただ、見たところそう被害もなさそうですし、周りにも迷惑ですので、そろそろ静かになさったらどうかと思いますが」
あくまでも実乃莉は静かに淡々と相手に告げている。だが、相手の男はその態度が気に入らないようだ。
「生意気な……。なら、お前が代わりに謝れば許してやる。その床に膝を突いてな。どうだ、そんなことはできないだろう!」
(なんて男なの? こんな人が将来政治家? 冗談じゃないわ!)
実乃莉は悔しくて唇を噛む。
隣でオロオロと様子を伺っていたスタッフの男性は「お客様! それは私が……」と実乃莉に声を掛けた。
「わかりました。私が謝罪したあとは退店いただけますよね?」
「しかたないが、そうしてやろう」
男はニヤついた下衆な顔で言う。
実乃莉がグッと手を握りしめ膝を突こうと身を屈めたときだった。
「実乃莉。そんなことしなくていい」
フワリとスパイシーな香りがしたかと思うと、実乃莉は肩を抱かれていた。