出会ったのは間違いでした 〜御曹司と始める偽りのエンゲージメント〜
映画は終わった二時間後、実乃莉はそれを選んだことを後悔していた。
とある国の王女がお忍びで街へ出かけ、そこで出会った人と恋をするストーリー。けれどたった一日だけの恋は、実ることなく終わりを迎えてしまうのだ。
(私は……こんなに気高くはいられない……)
自分の置かれた立場をまっとうする王女の姿を見て思う。
もちろん自分は王女などではないが、いずれこうやって龍に別れを告げなければならない。それを想像しただけで心が凍りつきそうだった。
「実乃莉?」
メニューに戻った画面をぼんやりと眺めていた実乃莉に、心配そうな表情で龍が声を掛ける。ようやく我に返った実乃莉は弾かれたように顔を上げた。
「……すみません」
きっと、何を思っていたかなど見透かされているだろう。龍はただ困ったように眉を下げ実乃莉の髪を梳いていた。
そんな龍に心配をかけてはいけないと実乃莉は先に口を開く。
「素敵な映画でしたね。ローマを訪れたことはないんですけど、行ってみたくなりました」
「……そうだな」
まだ憂えたまま龍は小さく答える。なんとも言えない微妙な空気が流れ、居た堪れなくなる。そこでふと、実乃莉は思い出した。
「あのっ、龍さん。実は……いまさらですけど私、龍さんに誕生日プレゼントを用意したんです。受け取ってもらえますか?」
「俺に? もちろん」
ようやくいつもの表情に戻ると龍は微笑む。
実乃莉がプレゼントが入る自分のバッグを探すように辺りを見渡すと、それに気づいた龍が実乃莉のバッグを取ってきた。
見た目より物が入るトートバッグから実乃莉はデパートの包装紙に包まれた長細い箱を取り出す。
「趣味に合えばいいんですけど……」
ネットで調べると相手により好みが千差万別だと見かけ躊躇したが、龍が会社に置いてあるものの柄を参考にしたり、デパートの店員に相談したりして実乃莉自身が選んだものだ。
「ありがとう。開けていいか?」
実乃莉が頷くと、龍は包み紙を剥がし箱を開け中身を取り出した。ライトネイビーをベースに、斜めにスカイブルーのストライプが入っているネクタイだ。
そのまま龍は片手で今身につけているものを取り去ると、代わりに実乃莉の贈ったものを首にかけた。
実乃莉は、龍がネクタイを締める手つきに釘付けになっていた。器用に動く手つきは優雅で美しい。見ているだけでときめいてしまう自分がいた。
龍はネクタイを締め終え形を整えると実乃莉に笑顔を見せた。
とある国の王女がお忍びで街へ出かけ、そこで出会った人と恋をするストーリー。けれどたった一日だけの恋は、実ることなく終わりを迎えてしまうのだ。
(私は……こんなに気高くはいられない……)
自分の置かれた立場をまっとうする王女の姿を見て思う。
もちろん自分は王女などではないが、いずれこうやって龍に別れを告げなければならない。それを想像しただけで心が凍りつきそうだった。
「実乃莉?」
メニューに戻った画面をぼんやりと眺めていた実乃莉に、心配そうな表情で龍が声を掛ける。ようやく我に返った実乃莉は弾かれたように顔を上げた。
「……すみません」
きっと、何を思っていたかなど見透かされているだろう。龍はただ困ったように眉を下げ実乃莉の髪を梳いていた。
そんな龍に心配をかけてはいけないと実乃莉は先に口を開く。
「素敵な映画でしたね。ローマを訪れたことはないんですけど、行ってみたくなりました」
「……そうだな」
まだ憂えたまま龍は小さく答える。なんとも言えない微妙な空気が流れ、居た堪れなくなる。そこでふと、実乃莉は思い出した。
「あのっ、龍さん。実は……いまさらですけど私、龍さんに誕生日プレゼントを用意したんです。受け取ってもらえますか?」
「俺に? もちろん」
ようやくいつもの表情に戻ると龍は微笑む。
実乃莉がプレゼントが入る自分のバッグを探すように辺りを見渡すと、それに気づいた龍が実乃莉のバッグを取ってきた。
見た目より物が入るトートバッグから実乃莉はデパートの包装紙に包まれた長細い箱を取り出す。
「趣味に合えばいいんですけど……」
ネットで調べると相手により好みが千差万別だと見かけ躊躇したが、龍が会社に置いてあるものの柄を参考にしたり、デパートの店員に相談したりして実乃莉自身が選んだものだ。
「ありがとう。開けていいか?」
実乃莉が頷くと、龍は包み紙を剥がし箱を開け中身を取り出した。ライトネイビーをベースに、斜めにスカイブルーのストライプが入っているネクタイだ。
そのまま龍は片手で今身につけているものを取り去ると、代わりに実乃莉の贈ったものを首にかけた。
実乃莉は、龍がネクタイを締める手つきに釘付けになっていた。器用に動く手つきは優雅で美しい。見ているだけでときめいてしまう自分がいた。
龍はネクタイを締め終え形を整えると実乃莉に笑顔を見せた。