出会ったのは間違いでした 〜御曹司と始める偽りのエンゲージメント〜
ようやく唇が離れると、真っ赤に染まった顔を覗き込まれる。恥ずかしさで目を合わせられない実乃莉を見て、龍はフフッと息を漏らした。
「ごめん」
思いも寄らない言葉をかけられ、実乃莉は驚いて顔を上げた。けれど龍は謝罪というには程遠い表情をしていた。
「したことは謝らないけど、しすぎたことは謝るよ」
クスクスと笑い声を漏らす龍に、実乃莉はより顔を赤らめた。
「息が……できなくなるかと思いました」
拗ねたように返す実乃莉に、龍は「ごめんって」と軽く返す。それからぎゅっと実乃莉を抱きしめた。
鼓動は増すばかりなのに、その腕の中は妙に落ち着く。実乃莉は自然とその背中に腕を回して胸に顔を付けた。
しばらくの間、伝わってくる龍の心臓の音に耳を傾けた。
「あのさ、実乃莉」
「なんですか?」
実乃莉は真上を向くが龍の表情は見えない。
「婚約……しないか?」
「え…………?」
実乃莉はただただ驚き、無意識にそう言った。
「いずれするなら今でもいいかと思って。それに……別れろと言っても婚約までしていたら簡単にいかないことくらい"向こう"にもわかるだろう」
(やっぱり……そうなんだ……)
素直に喜べなかったのは、自分の予想が当たっていたからだ。向こう、つまり自分を脅した相手は、自分がただの交際相手だからこそ『別れろ』と言ったに違いない。けれど、婚約したと正式に伝われば手を出しづらくなる。自分の家が家だけに。
「実乃莉が嫌なら無理強いはしない。だが俺はその方がいいと思ってる」
体は腕の中に閉じ込められていて、龍がどんな表情をしているのか知れないまま、淡々とした声だけが耳に届く。
実乃莉は迷っていた。龍は前に『どうしようもなくなったら婚約する』と言っていた。想定よりそれが早まっただけで、結婚するつもりがないことはきっと変わらない。
だとすれば、別れを告げられる日が早く訪れてしまうかも知れない。けれど龍は、最善の方法を考えてくれているのだ。だから実乃莉もそれに応えるしかなかった。
「わかりました。お受けします」
事務的に、感情無く返事をする。だが龍はその返事を聞くと、実乃莉をより抱きしめその肩に顔を埋めた。そして心底安心したように息を吐き出していた。
「よかった……。指輪、買いに行こうな。実乃莉に似合うやつ」
必要ない、とは言えなかった。周りを欺くには必要なものだ。
例えそれが、偽りの婚約であったとしても。
「ごめん」
思いも寄らない言葉をかけられ、実乃莉は驚いて顔を上げた。けれど龍は謝罪というには程遠い表情をしていた。
「したことは謝らないけど、しすぎたことは謝るよ」
クスクスと笑い声を漏らす龍に、実乃莉はより顔を赤らめた。
「息が……できなくなるかと思いました」
拗ねたように返す実乃莉に、龍は「ごめんって」と軽く返す。それからぎゅっと実乃莉を抱きしめた。
鼓動は増すばかりなのに、その腕の中は妙に落ち着く。実乃莉は自然とその背中に腕を回して胸に顔を付けた。
しばらくの間、伝わってくる龍の心臓の音に耳を傾けた。
「あのさ、実乃莉」
「なんですか?」
実乃莉は真上を向くが龍の表情は見えない。
「婚約……しないか?」
「え…………?」
実乃莉はただただ驚き、無意識にそう言った。
「いずれするなら今でもいいかと思って。それに……別れろと言っても婚約までしていたら簡単にいかないことくらい"向こう"にもわかるだろう」
(やっぱり……そうなんだ……)
素直に喜べなかったのは、自分の予想が当たっていたからだ。向こう、つまり自分を脅した相手は、自分がただの交際相手だからこそ『別れろ』と言ったに違いない。けれど、婚約したと正式に伝われば手を出しづらくなる。自分の家が家だけに。
「実乃莉が嫌なら無理強いはしない。だが俺はその方がいいと思ってる」
体は腕の中に閉じ込められていて、龍がどんな表情をしているのか知れないまま、淡々とした声だけが耳に届く。
実乃莉は迷っていた。龍は前に『どうしようもなくなったら婚約する』と言っていた。想定よりそれが早まっただけで、結婚するつもりがないことはきっと変わらない。
だとすれば、別れを告げられる日が早く訪れてしまうかも知れない。けれど龍は、最善の方法を考えてくれているのだ。だから実乃莉もそれに応えるしかなかった。
「わかりました。お受けします」
事務的に、感情無く返事をする。だが龍はその返事を聞くと、実乃莉をより抱きしめその肩に顔を埋めた。そして心底安心したように息を吐き出していた。
「よかった……。指輪、買いに行こうな。実乃莉に似合うやつ」
必要ない、とは言えなかった。周りを欺くには必要なものだ。
例えそれが、偽りの婚約であったとしても。