出会ったのは間違いでした 〜御曹司と始める偽りのエンゲージメント〜
父に今から龍と出かけることを告げに行くと、「挨拶の必要ない。行ってくればよい」と素っ気なく返ってきた。父はやはり、自分にはなんの興味もないのかといまさら実感しながら実乃莉は家を出た。
ほぼ時間通りに、龍の車は外で待つ実乃莉の横に静かに滑り込んで来た。
「実乃莉!」
龍は車を降りるなり実乃莉に笑顔を向ける。
「悪いな、急に。親父さんは大丈夫だったか?」
実乃莉を助手席に促しながら龍は尋ねた。
「はい。ご心配なく。挨拶も必要ないと……」
「そうか。まぁ、また親父さんには挨拶する機会もあるか。じゃあ乗って」
助手席に乗りシートベルトをしていると龍は運転席に戻ってくると実乃莉に向く。
「海沿いのレストラン予約できたんだ。今から向かえばちょうどいい時間だ。綺麗な夕陽を実乃莉に見せたくて」
その表情だけを見ると、実乃莉の知るいつもの龍だった。けれど、違和感は拭えない。
「ありがとう……ございます」
戸惑いながらも礼を述べ、実乃莉は龍の顔を見つめた。口角を上げ、笑みを浮かべると龍は前を向きハンドルを握る。
「どういたしまして」
そう言って微笑んだまま、龍は車を走らせ始めた。
(どう……しよう……)
静かな車内から外の景色を眺め、実乃莉は思案に暮れる。この違和感の正体が、なんとなくわかってしまったかも知れない。
龍と知り合ってまだ二ヶ月ほどで、お互い知らないことだらけだ。けれどその間、会わない日のほうが少なかった。長い付き合いの深雪と比べればまだまだだが、それでも龍がどんな人なのか少しは理解しているつもりだ。
実乃莉は決心して話を切り出した。
「あの、龍さん」
「何?」
龍は前を向いたまま、機嫌良さそうに返事をする。
「何か……ありましたか?」
横顔にそう尋ねると、上がっていた口角は下がり、龍は真顔になった。
「……なんで?」
低く響くその声が車内にこだまする。実乃莉は顔を強張らせながら続けた。
「無理、してる気がして。だから……」
さっきからずっと感じていたが、それは会ってみて確信に変わった。
本当は笑いたい気分じゃないのに、無理して笑っているのではないかと。
実乃莉が尋ねたあと、その表情はどこか暗いものに変わっていた。これが本心だと言わんばかりだ。
「そんなに出てたんだな。大人げねぇな、俺も」
自分を貶めるように言ったあと、龍は続ける。
「あの仲人。うちのじじぃを昔から知ってる人だった。で、聞きたくもない昔話しになった」
ほぼ時間通りに、龍の車は外で待つ実乃莉の横に静かに滑り込んで来た。
「実乃莉!」
龍は車を降りるなり実乃莉に笑顔を向ける。
「悪いな、急に。親父さんは大丈夫だったか?」
実乃莉を助手席に促しながら龍は尋ねた。
「はい。ご心配なく。挨拶も必要ないと……」
「そうか。まぁ、また親父さんには挨拶する機会もあるか。じゃあ乗って」
助手席に乗りシートベルトをしていると龍は運転席に戻ってくると実乃莉に向く。
「海沿いのレストラン予約できたんだ。今から向かえばちょうどいい時間だ。綺麗な夕陽を実乃莉に見せたくて」
その表情だけを見ると、実乃莉の知るいつもの龍だった。けれど、違和感は拭えない。
「ありがとう……ございます」
戸惑いながらも礼を述べ、実乃莉は龍の顔を見つめた。口角を上げ、笑みを浮かべると龍は前を向きハンドルを握る。
「どういたしまして」
そう言って微笑んだまま、龍は車を走らせ始めた。
(どう……しよう……)
静かな車内から外の景色を眺め、実乃莉は思案に暮れる。この違和感の正体が、なんとなくわかってしまったかも知れない。
龍と知り合ってまだ二ヶ月ほどで、お互い知らないことだらけだ。けれどその間、会わない日のほうが少なかった。長い付き合いの深雪と比べればまだまだだが、それでも龍がどんな人なのか少しは理解しているつもりだ。
実乃莉は決心して話を切り出した。
「あの、龍さん」
「何?」
龍は前を向いたまま、機嫌良さそうに返事をする。
「何か……ありましたか?」
横顔にそう尋ねると、上がっていた口角は下がり、龍は真顔になった。
「……なんで?」
低く響くその声が車内にこだまする。実乃莉は顔を強張らせながら続けた。
「無理、してる気がして。だから……」
さっきからずっと感じていたが、それは会ってみて確信に変わった。
本当は笑いたい気分じゃないのに、無理して笑っているのではないかと。
実乃莉が尋ねたあと、その表情はどこか暗いものに変わっていた。これが本心だと言わんばかりだ。
「そんなに出てたんだな。大人げねぇな、俺も」
自分を貶めるように言ったあと、龍は続ける。
「あの仲人。うちのじじぃを昔から知ってる人だった。で、聞きたくもない昔話しになった」