愛され庭師は悪役令嬢に巻き込まれ……いえ、今世こそ幸せにしてあげたいです!

第19話 花泥棒

 アッサムの紅茶に、バラのジャムを添えて。
 紅茶にジャムを入れて飲むのは、冬の国では定番だ。

 ティースプーン一杯のジャムをティーカップに入れ、そこへアッサムティーを注ぐ。
 スプーンでかき混ぜると、バラの香りと紅茶の香り、ジャムの甘みと酸味、紅茶のコクがバランス良く溶け合う。
 バラの花びらがゆらゆらと漂う、優しい香りのするこのお茶は、令嬢たちの茶会にこそふさわしい。

(ああ、良い匂い)

 室内を満たす優雅な香りに、ペリウィンクルは頰を緩ませた。
 ローズマリーにサントリナ、そしてセリの三人がカップに口をつけたのを見届けてから、ご相伴に与る。
 鼻に抜けるバラの香りにうっとりと吐息を漏らしていると、物言いたげにしているローズマリーと目が合った。

 どうせ、「さぁペリ、出番よ。サントリナ様を泣かせる不届き者を、懲らしめてやりなさい!」とか言うつもりなのだろう。セリの時のように。
 そう思ったからこそ、ペリウィンクルは先手必勝とばかりに、「ところでお嬢様」と話しかけた。
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