愛され庭師は悪役令嬢に巻き込まれ……いえ、今世こそ幸せにしてあげたいです！

（最近のヴィアベルは、やけに大人っぽいというか……身内とは思えない空気を出してくるのよね）

　ここは彼のテリトリーである中央の国だから、素を出しているだけなのかも。
　最初はそう思っていたのだが、どうも違うような気がしてならない。

（まさか、ヴィアベルのことを怖いと思うなんて……）

　まるでペリウィンクルを試すかのように折に触れて出してくる、思わず誤魔化し笑いをしてしまいたくなるような、甘ったるい空気。
　その空気に触れると、ペリウィンクルの心臓は走ったあとのようにはやく脈打って、その場にヴィアベルと自分しかいないような錯覚を感じて、何だか知らないけれど泣きたくなる。

　この空気の名前を、ペリウィンクルは知らない。
　知らないから怖いのだと、彼女は結論づける。
　だから、名前をつけようと思った。

『怖いのは知らないからだ。名前をつけてしまえば、とりあえず知っているものになる』

　この方法を教えてくれたのは誰だったか。
　もう思い出せないけれど、両親を喪い、何事にも怯えるようになってしまったペリウィンクルに、誰かが教えてくれた。