愛され庭師は悪役令嬢に巻き込まれ……いえ、今世こそ幸せにしてあげたいです!
 すぐ後ろから声がして、トゥルシーは慌てて体を翻す。
 持っていたハサミを隠すように胸に抱き、彼女は声の主と対峙した。

 今宵の夜空を溶かしたような色をした、柔らかそうな髪。神経質そうな緑色の目が、眼鏡の奥でスッと眇められる。

「ディル様」

 トゥルシーが名前を呼ぶと、男は薄い唇を不満そうにぎゅっと引き結んだ。

「やめるんだ」

 鋭い眼光が、トゥルシーに突き刺さる。

「あなたには関係のないことです」

 トゥルシーが冷たく言い返すと、ギリリという音が聞こえてきた。
 何だろうと思って視線を落とすと、革手袋をした彼の手が、何かを堪えるようにきつく握られている。
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