愛され庭師は悪役令嬢に巻き込まれ……いえ、今世こそ幸せにしてあげたいです!
「愛ですわ」

「ああ、愛だ。僕はトゥルシーを愛している」

 うっとりと呟くディルは、酒を飲んで深酔いしているようにも見える。

(私には、ディル様がトゥルシー様を観察対象として愛していると言っているようにしか聞こえない……)

 おそらくそれは、ペリウィンクルがディルルートのヒロインエンドと悪役令嬢エンドを知っているせいだろう。
 彼は最初からわりと好意的に接してくれるが、それは観察したいためであり、愛の言葉も必要あらばスラスラ言ってのける。

(この顔……ちょっとヘンタイっぽくて好きだったなぁ)

 顔が、胡散臭い。あと、声も。

 彼は興奮すると悦にいった声で延々しゃべる。
 ヘッドフォンをして通勤中にプレイする時は、それはもう大変だった。
 耳が溶けそう、もしくは孕みそうな美声が延々聞こえてくるのである。
 もだえるのを我慢するあまり、つり革を握る手は握力がついた。
 そして前世のペリウィンクルは、ついに特技・ポーカーフェイスを手に入れたのだ。
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