愛され庭師は悪役令嬢に巻き込まれ……いえ、今世こそ幸せにしてあげたいです!
 ゲーム上では甘い美貌と優しい声音に騙されてきたが、実はそんなに素敵な人でもないのかもしれない。
 そもそもヒロインとの出会いだって、不敬にもソレルの箱庭で妖精と戯れていたにもかかわらず、彼女が無邪気なウサギのようで愛らしかったから不問に処すというものなのだ。

(小動物系令嬢なら誰でもいいのかよ!)

 失礼なことを考えながら、ペリウィンクルは素知らぬ顔でお茶を入れる。
 本日はソレルが愛飲している、秋の国特産の紅茶だ。ペリウィンクルはそれにエルダーフラワーとマリーゴールドをブレンドして、春らしい紅茶に仕上げた。

 フローラルな香りをまとった琥珀色をカップへ注ぎながら、ペリウィンクルは二人を盗み見る。
 ソレルはローズマリーのことを熱心に見つめ、露骨すぎる態度の変化にローズマリーはスンと遠い目をしていた。

 ローズマリー曰く、ソレルが公爵家を訪問するのは実に一年ぶりのことらしい。

『今回の訪問もね、国王陛下から言い渡されたからなのよ。フェアリーテイマー養成学校へ行く前に、あいさつくらいしておけって。まぁそれも、お父様が国王陛下に進言したからなのでしょうけれど』

 そう言ってぷっくりと頰を膨らませるローズマリーは、リスのように愛らしかった。
 思わず抱き寄せたくなる衝動に駆られ、ペリウィンクルは意味もなくスカートを握り締めた。そのせいで制服にシワが寄ってしまったが、後悔はしていない。
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