愛され庭師は悪役令嬢に巻き込まれ……いえ、今世こそ幸せにしてあげたいです!
 妖精たちの注目の中、リコリスは校門前で盛大に転んでしまったようだ。
 居合わせた学校長の息子であるシナモンが助け起こすと、彼女は涙ながらに訴えた。「わたし、誰かに足を引っ掛けられて転んじゃったんです!」と。

 妖精たちは首を傾げた。
 だってリコリスは、一人で勝手に転んだのだ。
 リコリスの近くにいたのは三人の娘だけで、彼女たちは何もしていなかった。
 三人中二人は、重いトランクを抱えていたし、残る一人は小さな体にゴテゴテしたドレスを身につけている。
 だからどうしたって、リコリスに危害を加えられるはずがない。

 リコリスがしていることは、故意なのか勘違いなのか定かではない。
 だが彼女は、よりにもよってシナモンに、誰かに転ばされたとうそをついて、犯人を探させているようなのだ。

 シナモンは、この学校の長の息子である。
 父がこの場所をどんなに大切にしているか、誰よりも理解していた。
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