愛され庭師は悪役令嬢に巻き込まれ……いえ、今世こそ幸せにしてあげたいです!
 いつもだったら自分にかけてくれる優しい声を、シナモンは見知らぬ少女へ向けていた。
 大丈夫だよと言って撫でてくれていた手が、少女の頭を撫でる。
 それがどうしようもなく悲しくて、セリの口はますますかたく閉ざされた。

 セリはこんな状態なのに、シナモンは言いたいことを言ってスッキリした顔をしていた。
 呆然とするセリの横を素通りして、二人は仲睦まじい様子で去っていく。
 残されたセリは、よろよろと力なく近くのベンチへ腰を下ろした。

 とにかく、訳がわからなかった。
 唯一わかることといえば、セリの初恋が呆気なく散ったということくらい。
 恋をしているという自覚をする前に、失恋してしまった。いや、失恋したからこそ恋をしていたのだと自覚したのか。

「ふ、うぅ……」

 ハラハラと涙がこぼれる。
 ここに誰もいなくて良かった。人前で泣くなんて、恥ずかしい行為だから。
 両手で顔を覆い、セリは声を押し殺して泣いた。
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