愛され庭師は悪役令嬢に巻き込まれ……いえ、今世こそ幸せにしてあげたいです!
 今宵の茶会で出すお茶は、ヴィアベルにリクエストされたセントジョンズワートだ。
 セントジョンズワートは、暗く落ち込んだ心に明るさを取り戻すハーブだと言われている。
 
 妖精の女王の誕生日である夏至の日に収穫すると、最も治癒力が強くなるらしい。
 別名、サンシャインサプリメント。
 前世では、抗うつ、消炎、鎮痛の作用があったとペリウィンクルは記憶していた。

「セリ様のためかなぁ。わざわざ用意しろって言うくらいだから、何か意味があるんだろうけど」

 ローズマリーがセリを拾ってきてから、ひと月が経とうとしている。
 淡い初恋というものはなかなか厄介なもので、セリは未だ失恋から立ち直る様子が見受けられない。
 遠目でもシナモンを見ようものなら、ローズマリーやペリウィンクルの背にサッと隠れてしまうのだ。
 
「まぁ、セリ様もセリ様でかわいいから役得ではあるんだけど……」

 臆病な野生動物に懐かれたようで、なかなか悪くない気分だった。
 しかし、逃げ込まれるたびにシナモンから発せられる、針先で刺すようなチクチクとした視線には困らされた。
 まるで「僕の場所だったのに」と責めるような視線に、ほんの少し、ざまあみろとも思ってしまったのだが。
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